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マイケル・スノウ『中央地帯』世界を破壊する三軸回転から宇宙を見る

大傑作。ズーム映画『波長』とパン/チルト映画『Standard Time』『←→』に続く一つの集大成的な作品。NYからトロントに帰国したスノウは、本作品のためにカメラを地面スレスレから上向きまで様々動かせる機械を設計/製作し、それをケベックの山岳地帯に設置して撮影を行ったらしい。最初のパートでは、真下を向いてカメラ架台を中心に360度パンしていたカメラが、電子音と共に少しずつ上方向にチルトしていって景色を捉えていく様を描いている。一回転してからチルトするわけではないので、そこまで機械的な印象は受けないが、それでも知らない惑星に降り立った探査機みたいな緻密さで、ある点から観測しうる全ての景色を記録していく。第二パートでは上下反転した空から始まり、パンとチルトを融合させてカメラで遊んだ後、画面が回転し始める(ロール)。パンがz軸、チルトがy軸回転なら、ロールはx軸回転で、取り敢えず三軸は揃ったことになる。ここからは緩急を付けて三軸の回転を自由自在に融合させて映像を組み上げていく。最初のパートではチルトの合図だった電子音も次第に意味を失っていき、音と動きに相関が見えなくなっていく。三軸で回転を続けることで、上下左右という感覚も破壊されるので、人間が重力に順応して地球側を"下"と捉えている愚かさみたいなものを指摘されているような気がした。中盤で一旦時間が進み、空が次第に暗くなり始めるが、カメラは相変わらず暴れまくっており、月が照らす僅かな部分と月本体の存在によって自分が回転していることを知る。本当に宇宙にいるかのような座標の決め方だ。更に時間が進んで朝がやってくるが、今度は三軸回転大暴れの中にピントフォーカスというx軸並進運動まで加わってカオス具合が増していく(y軸とz軸の並進運動まで加える予算がなかったんだろう)。ラスト15分くらいになると、高低両方の電子音が爆増し、形状すら判別できないくらいの速さで青空と地面を行ったり来たりする。明暗の往来から"一日"を連想し、宇宙誕生以来の歴史を垣間見たような気分にもなる。

本作品を含めた上記の四作品は、所謂"構造映画"に分類されるらしいが、全く意味がわからないので以下適当に引用したメモ。

構造映画:フィルムカルチャー誌1969年47号に掲載されたP・アダムズ・シトニーによる論文で紹介された実験映画の形式の一つ。映画を成り立たせているフィルムの特性や撮影、映写の仕組みを作品のコンセプトとし、映像をコンセプチュアルに編集・構成した作品が多い。通常の映画を鑑賞する場合、観客は映写された映像を現実世界で体験する時間や空間と同じように理解するが、構造映画作品の場合、観客はスクリーン上で変化する映像そのものを経験することになる。
以下四つの特徴があるが、必ずしも守っているわけでもない
・カメラ位置の固定
・フリッカー効果(光の明滅効果)
・ループされたフィルムの複製
・スクリーンの再撮影

シトニーによる定義は、ある種の曖昧さを含む。フルクサスのようなコンセプチュアル・アートの文脈にある映画とは対照的なものと位置付けられる(シトニーが構造映画を、単純な素材が複雑化し、全体的に形成されたものとして考えていたため)。

例:マイケル・スノウ、ジョイス・ウィーランド、トニー・コンラッド、ホリス・フランプトン、ポール・シャリッツ、ジョージ・ランドウ(オーウェン・ランド)、アーニー・ゲール、ケン・ジェイコブスなど。ドイツのヴィルヘルム&ビルギット・ハインや、日本の飯村隆彦なども含むこともある。

引用元:
https://artscape.jp/artword/index.php/%E6%A7%8B%E9%80%A0%E6%98%A0%E7%94%BB

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・作品データ

原題:La Région Centrale
上映時間:184分
監督:Michael Snow
製作:1971年(カナダ)

・評価:90点

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