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『死ぬまでに観たい映画1001本』を死ぬまでに全部観た! ~攻略マニュアル~

11年かかったが、『死ぬまでに観たい映画1001本』を完走した。

と言っても、完走したのは2011年版で、追加/削除された作品を含めると、まだ140本ほどあるのだが、11年間小脇に抱えていた重たい本を本棚に戻すという区切りの意味で、一旦走りきったことにしたい(残りもいずれ)。

他人の作ったリストをマラソンする最大の利点は、自分では選ばないような作品を観ることになる点にある。私はミュージカルとドキュメンタリーが苦手だし、有名な映画には興味がないし、80年代の映画はあまり好きになれないので、このリストに出会わなかったら今以上に偏った観賞履歴になっていただろう。しかし、『マルケータ・ラザロヴァー』という題名の厳つさに惹かれて東欧映画の森に迷い込んだのも、サイレント映画沼に足を突っ込んだのも、ガイ・マディンやジョン・ジョストに出会ったのも、全てこの本がきっかけなので、最早出会わなかったことなど想像できない。

既に何度か述べている通り、この本には様々な問題がある。欧米作品に偏りすぎ(アメリカだけで半分くらい)、2000年代以降の作品が少なすぎ、同じ監督選びすぎ(ヒッチコックだけで15本超)など列挙に暇がない。だが、この本について最も大切なのは、この本が全てではないということだろう。時代でもジャンルでも国でも監督でも良いので、興味を持った作品から横に広げることを前提にしているはずだ。だからこそ、死ぬまでに観終われば良い、横に広げまくって永遠にこの本の中で映画という沼に溺れてくれ、とそんな温度感での選出なんだろう。違うか。

また、この本の起こした一つのムーブメントとして、各国の批評家や映画雑誌や映画センターが自国の映画を101本なり303本なり選出し始めたというのが興味深い。本家と"そんなのまで入れるんだ…"というツッコミまで共有しながらも、その国の映画を観る指針として非常に心強い味方だ。

★"死ぬまでに観たい映画1001本"全作品リストと変更点

実は2003年に刊行されて以降、毎年マイナーチェンジを繰り返しており、一度でも選出された作品を全部含めると1250本くらいになる。その完全版リストと各年の変更点はこちらの記事にあるので、マラソンのお供にどうぞ。何が入っていて何が入ってないか、自分はどれを観ていてどれを観ていないのか、どこにどの作品があるのか、といったことを知るには、やはりまずリストが必要だ。私もExcelなりLetterboxdなりIMDbなりにリストを作って整理していたのでご参考までに。

★"死ぬまでに観たい映画1001本"を観る

この章では、攻略マニュアルとして様々な場所に散らばった1001本を集めて鑑賞する方法を書いていく。あくまで関東圏在住の私のやり方なので、そのへんはご留意あれ。

♪配信で観る

ここ数年で配信作品は格段に増えた。自分がマラソンを始めた10年前は、『牯嶺街少年殺人事件』や『フェリーニのアマルコルド』はVHS止まりだったし、ベルイマン諸作はハピネットの廃盤DVDが法外な値段で売買されていたが、今ではそのどれもが配信されている。頑張って調べれば、600本くらいは配信のみで鑑賞することが出来るだろう(都度変わるので調べてはないです)。以下に、その手段を示す。

①日本国内のVOD

このリストは旧作が多いので、U-NEXTやAmazon Prime Videoを頼ることになる。前者の躍進は目覚ましいが、後者も最近になってジュネス企画作品の一挙配信を始めるなど、非常にありがたい存在だ。体感としてはこの二つだけで1/3から半分くらいは観られるんじゃないかと思う。配信だけで観ることに拘るのであれば、ビデオマーケットやdTVにしかない作品もそれなりにある。私も『ガンガ・ディン』のためだけにdTVに加入した(今もあるかは分からない)。

ここで、私が使っていたのはFilmarksのクリップ機能だ(これはリスト化の効果もある)。Filmarksでは、各配信サービスごとにクリップした作品がラインナップに含まれているか表示してくれる(検索→動画配信サービスから探す)ので、私は"1001の映画"のためにアカウントを一つ作成し、未鑑賞の作品を全てクリップすることで、どの作品がどのVODで配信されているかを探していた。これによって、例えばdTVのみで配信されている作品などをリストアップし、短い期間でそれらの作品を狙い撃ちすることができた。注意点としては、Filmarksとアマプラの連携が上手く取れてない作品が多いので、アマプラだけは個々にリンクが合ってるか確認する必要があること。そして、"完全版"やら"ディレクターズカット"やらで作品ページが分けられている作品は、リンクもバラバラに貼られていることが多いので都度探す必要があることか。

②海外のVOD

マラソン完走を目指すのであれば、日本未公開作品を英語字幕で鑑賞するのは避けられない。そして、その覚悟があるのであれば、まずはアメリカ版iTunesへの登録を推奨する(登録は各自の自己責任でお願いします)。すると、日本では未だVHS止まりの『SAFE / ケミカル・シンドローム』や『ハーケンクロイツ / ネオナチの刻印』といった作品が、お手軽に高画質で鑑賞できるのだ。しかも、多くの場合で英語作品には英語字幕が付かないのだが、米iTunesではだいたい付いてるので、リスニングとリーディングをどちらも鍛える必要はなくなり、聞き取れずに意味を追えなくなるという心配も減る。

また、以下の配信サイトでは中々見かけないレアな作品を配信している。

・Vimeo

オンライン上で映像コンテンツの売買が出来るプラットフォーム。以下の作品は購入することになるが、いつでもDL可能である。
  ジョン・ジョスト『Last Chants for a Slow Dance』(英語音声・字幕なし)
  フレッド・スケピシ『The Chant of Jimmie Blacksmith』(英語音声・字幕なし)
  ヌリ・ビルゲ・ジェイラン『冬の街 (Uzak)』(英語字幕あり)

・Youtube

最近は各国の映画センターが公式チャンネルで作品を高画質で配信していることも多く、特にロシア映画は充実している。この本に載っているロシア映画はほぼタルコフスキーだけだが、『ストーカー』は震えるほど高画質で、かつ日本語字幕が付いてるので良かったら。あとは、パブリックドメインになったサイレント映画なども大体揃っている、はず。
 ※この本には載ってないが、モスフィルム公式が私の大好きな超絶可愛らしいコメディ『コーカサスの虜、或いはシューリクの新たなる冒険』を日本語字幕付きでアップしているので、こっちも観てね!

MUBI

英語字幕だが、こちらでもレアな作品がたまに配信されている。リッティク・ガタク『黄金の河』、アニエス・ヴァルダ『冬の旅』、ハーバート・ビーバーマン『地の塩』、ラウル・ルイス『三つの人生とたった一つの死』などは目撃したことがある。こちらも英語作品に英語字幕ありのことが多いので、お試しあれ。

Eastern Europe Movies Online

東欧映画の配信サイト。全ての作品に英語字幕付きで、100ドルで永久無限DL可能という超優良サイト。ここではカレル・カヒーニャ『耳』、ヤンチョー・ミクローシュ『The Red and the White』、フランチシェク・ヴラーチル『マルケータ・ラザロヴァー』など、激レア作品が多数配信されている。字幕もsrtでダウンロードできるので、分からなくなったら翻訳サイトに全部突っ込むという最終手段も取れるのがありがたい。ちなみに、姉妹サイトのSoviet Movies Online ではソ連とロシア映画を、Asian Movies Online ではアジア映画を配信している。特に後者では激レア映画『盗馬賊』を含めたレアなアジア映画が配信されているので、要注目。

♪レンタル(DVD/VHS)

配信はされてないがレンタルはされている作品は、レンタルするか、セル盤があれば購入するしかない。面倒なら海外VODで済ませるのも手だが、日本でVHSで止まりかつ海外でもVHS止まりという作品も多い。渋谷TSUTAYAではVHSのレンタルも行っている(直接返しに行けるのであればVHSデッキも借りられる)ので、活用してみるのも手。ここでは、
  ジョフ・マーフィ『UTU / 復讐』
  ガイ・マディン『アークエンジェル』
  ジャファル・パナヒ『白い風船』
などをレンタルして鑑賞した。これらは現状、海外の配信サイトでの配信は確認できない。

♪購入する

残念ながら、セル盤は販売されているがレンタルや配信がない作品も多くある。例えば、
  アンドレ・テシネ『野性の葦』
  ウンベルト・ソラス『ルシア』
  マックス・オフュルス『歴史は女で作られる』
  グラウベル・ローシャ『黒い神と白い悪魔』『狂乱の大地』
  カルロス・サウラ『カラスの飼育』
といった作品は購入した。また、日本で一度は公開/TV放映されたが(つまり邦題は付いているが)ソフト化されていない作品で、海外盤なら存在する作品も勿論存在する。例えば、
  マルセル・オフュルス『哀しみと憐れみ』
  マルセル・オフュルス『ホテル・テルミニュス』
  ハンス・ペテル・モーランド『野良犬たち』
といった作品も購入した。

こういった作品は国内/海外問わず廃盤になっていることも多いので、手分けして購入する等の工夫も必要か。10年前より格段に環境が整っているとはいえ、10年前なら普通に手に入った作品が今では激レア状態になっていることもある。

※注意点:リージョンコード
DVDやBlu-rayには販売元の国によってリージョンコードというものが付けられており、DVDには1~6までの番号が、Blu-rayにはA,B,Cが割り振られている。日本で販売されるDVDはリージョン2、Blu-rayはリージョンAであり、日本の家電量販店とかで売ってるプレイヤーではそのリージョンコードしか再生できない。リージョン2は欧州など、リージョンAは環太平洋地域を指している。また、NTSC方式とPAL方式という映像規格があり、日本と北米はNTSC方式、欧州はPAL方式となる。これが違うとDVDプレイヤーでは再生できないが、PCでは関係なく再生できる場合もある。なので雑にまとめると日本のプレイヤーでは北米のBlu-rayは鑑賞できる、PCのプレイヤーなら欧州のDVDも再生できるかもしれない。欧州のBlu-rayや北米のDVDは再生できないのか?というと、
①PCのプレイヤーならリージョンコードを変更できる
 →でも回数制限付きなのであまり好ましくはない
②リージョンフリープレイヤーを買う(これはNTSCとPAL関係なしで再生できるはず)
 →単純に高いけど便利
と、これくらいしか思い付かないが、観る方法はある。私は古いPCのリージョンコードを変更して鑑賞していたが、社会人になってからリージョンフリープレイヤーを購入した。

♪全ての特集上映に目を光らせる

それでも出会えない作品は多々ある。そんな時は運に身を任せるしかない。私がクレール・ドゥニ『死んだってへっちゃらさ』やティエン・チュアンチュアン『盗馬賊』を鑑賞できたのはほんの偶然にすぎない。アテネ・フランセ文化センター、アンスティチュ・フランセ東京、国立映画アーカイブなどで行われる特集上映などに目を光らせておくと、思いがけず激レアな作品が日本語字幕付きで鑑賞できることもある。

★"死ぬまでに観たい映画1001本"と私

この章では、「死ぬまでに観たい映画1001本」との関わりについて述べていく。ほぼ自分語りなので興味ない方は飛ばしてください。

この本の存在を知った当時、私は中学三年生だった。両親や祖父母の影響でそれなりに映画は観ていたと思っていたし、事実そんな同級生は周りにいなかったので、天邪鬼だった私は鼻高々だった。そんな折、学校の図書館に入った一つの本に出会う。それが町山智浩「トラウマ映画館」だった。個人PCもスマホも持っていなかった私にとって、TSUTAYAを越えた先に映画があるということを初めて実感を以て捉えられた本だった。中でも(中学生らしく?)イエジー・スコリモフスキ『早春』には心惹かれた。家にあった共用オンボロPCで調べてみると、ちょうど2011年にイギリスでリマスター版Blu-rayが出たばかりだった。しかし、個人輸入のノウハウも手段もないので諦めざるを得なかった。この本に出会ったのはそんなときだった。

2011年版の表紙は『ブラック・スワン』の黒白鳥状態ナタリー・ポートマンの顔だけ写真なんだが、これがもう"絶対買わせる気なんかないだろう"というくらい怖い(私は常にカバーを外して読んでいた)。しかし、初対面はそんな買わせる気の無さそうな表紙だった。恐る恐る手に取って、その中に『早春』を見つけた。この本を追っていけばいずれ交わることになるのかと、自分に対する約束のようなものも込めて、私はこの本を追うことに決めたのだった。買ってから最初に観たのは、『大脱走』だったと思う。

昔からリストを作るのが大好きで、アカデミー賞受賞作リストとか王朝の家系図とか様々なリストを作りまくっていた。私がこの本に出会ったのも当然と言えるかもしれない。ということで、最初にやったことは、英題を紙にコピーして、ひたすら邦題を書きまくることだった。TSUTAYAに行って、これ入ってるか?という疑問に即答出来るように…というのは後付けで、単純にリスト化するのが好きだったのだ。おかげで今でも全部覚えている。しかも、大体何年くらいの作品なのか覚えていたおかげで、横にも広げやすかったし、映画史にもアクセスしやすかった。このとき、160本ほど観ていることを知った。

中学から高校にかけての3年ほどは、お年玉やらお小遣いやらを全て注ぎ込んだ収集活動に熱意を傾けていた。特に紀伊國屋盤の収集には力を費やした。当時はまだ、新宿本店の1階にDVD売り場があって、そこにはF・W・ムルナウ『タブウ』とかテオ・アンゲロプロス箱とかヴェルナー・ヘルツォーク箱が新品として並んでいた。それらを片っ端から買っていった。その中にG・W・パープスト『パンドラの箱』が含まれていた。ルイーズ・ブルックスの美しさに目が釘付けになった。付属のブックレットは何度も読んで、シネマヴェーラに『淪落の女の日記』まで観に行った。この映画によってサイレント映画への道が開けていった。サイレント映画はパブリックドメインの作品もあって、アクセシビリティが高いのが良い。気になるな、と思って調べてみて、すぐ観られるという身近さが良い。東欧映画なんかアクセスすらできないものが多いので。高校三年にもなると、大学受験のために色々と忙しくなってくる。高校三年のときは、年に数本しか鑑賞出来なかった。そんな中でもよく覚えているのが、カルロス・サウラ『カラスの飼育』だ。国立二次試験直前のある日、もうやることがなくなったので、これ以上勉強して不安になるよりはと手に取ったのがこれだった。Jeanetteの歌う主題歌はそのままiPodに入れて、会場で聴きまくった覚えがある。国立二次試験が終わったらすぐに卒業式だったので、この映画が事実上高校生最後に観た映画だった。この時点で340本ほど観ていたと記憶している。

大学に入ると、サークルにレポートにと忙しくなって、映画は二の次三の次となる。映画と再会するのは大学三年の終わり頃だった。『早春』のリバイバル上映があったのだ。この映画との再会によって、再びこの本に戻ってきた。最初に観たのはケネス・アンガー『スコルピオ・ライジング』だった。まずは短い映画を観て数を増やし、モチベーションを上げよう、と。続いて、入手難易度の確認を進めて、購入が必要な作品を洗い出した。結構多かった。大学生になってカードも持っていたので、ここに来てようやく米アマゾンからの個人輸入という選択肢を思い出した。最初に買ったのは『マルケータ・ラザロヴァー』のBlu-rayだった。『マルケータ・ラザロヴァー』はその響きから東欧映画の深い森へ誘った作品だったが、ポーランド映画祭とチェコスロヴァキア・ヌーベルヴァーグ特集に先を越されて、未だに観たことがない作品だった。とても素晴らしい作品だった。今でも私のオールタイムベストTOP10に君臨している。

大学四年の年は"外"を意識した年でもあった。Twitterのオフ会に参加し、友人の輪を広げて(もらって)、東京国際映画祭にも参加し、noteまで始めた。「死ぬまでに観たい映画1001本」に関する二つの記事は、noteを初めて5本目くらいの記事だった。そうして順調に、適当に休みながら、11年掛けたマラソンを社会人二年目の冬に終わらせることになった。

che bunbun氏のYoutubeチャンネルで色々語ったので、コチラもよろしければどうぞ。

★最後に

11年かかったと冒頭に書いたが、間の5年ほどは映画を一切観ない時期もあったので、本格的に観始めてから観終わるまでは6年弱といったところか。最初に観たのは多分『スター・ウォーズ 新たなる希望』、最後に観たのは『ニュー・シネマ・パラダイス』だった。取り敢えず、『Sherman's March』と『David Holzman's Diary』と『Last Chants for a Slow Dance』に出会わせてくれてありがとう!東欧映画に、サイレント映画に出会わせてくれてありがとう!感謝してもしきれない、本当に。

次なる目標はカンヌ国際映画祭のコンペ選出作品を全部観ること、だが、これはもっとハードなマラソンになるだろう…

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