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Robert Machoian『The Killing of Two Lovers』先の見えない別居生活の解決策は…

田舎版『マリッジ・ストーリー』という形容はある程度正しい。デヴィッドとニキは4人の子供を持つ夫婦であるが、離婚の危機に瀕しており、現在はデヴィッドが近くにある実家に引き上げることで実質的な別居状態にある。高校生くらいの娘ジェスは真っ向から戦おうとしない父親に呆れると同時にムカついていて、その下の男三兄弟は無邪気に父親と戯れているので、夫婦のどちらかが家庭に深刻な悪影響を与えてきたというわけでもなさそうだが、夫婦が実際に対峙するとデヴィッドは全く戦おうとしないどころかさっさと非を認めて逃げ出してしまうので、ニキのイライラが溜まるのは理解できる。なので具体的な喧嘩は起こらず、二人きりになって近況報告をしあう時間でも、表面的に褒め合って時間だけが流れていく。このとき、二人は車に乗っているんだが、それをいいことに互いと視線を合わせようともせず、画面にも二人で入らないので、完全にすれ違っていることが分かるという名シーンになっている。

まだ離婚すらしていないのに、ニキには早速恋人がいて、デヴィッドはこのデレクという無神経な男の存在にやきもきしている。夫婦が偶然自宅の玄関を監視していたとき、コイツがやってきてジェスとバトルを繰り広げるシーンは、視点が夫婦の側にあるので双方が遠くから静かにバトルを眺めていて非常に笑える。終盤では夫婦喧嘩に介入して、ニキを厭らしく付け狙う男として再登場する。ここまで性欲が服着て歩いてるみたいな人物を紳士的に出されると笑いを堪えるのも大変になる。どんな状況に追い込まれても核にある優しさを忘れないデヴィッドとは良い対比となっていて、

中々戦おうとしない父親をある意味で応援してくれるジェスという存在が、決定的にヒビが入っていない夫婦関係を暗示していて、ニキの内面がジェスという形で表現されているようにも見えてくる。実際、デヴィッドのトラックの助手席に座るシーンがそれぞれで反復されていて、二人の共通点を提示している。しかし、結局二人は向き合わず、超アクロバティックな方法で仲直りしてしまうのが、なんとも言えない余韻を残す。恐らくデヴィッドとニキは、前回と全く同じ理由で全く同じ話を繰り返すだろう。

本作品の舞台はアメリカの田舎なので、住宅が密集している地域以外は『ザ・ライダー』くらいの荒野が広がっている。車の内外での距離感の違いを被写体との距離の違いとして二重に表現している本作品では、無限に広がる荒野と答えの見つからない別居生活か重ねられ、その広がりを美しく切り抜いているのが印象的だった。

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・作品データ

原題:The Killing of Two Lovers
上映時間:84分
監督:Robert Machoian
製作:2020年(アメリカ)

・評価:80点

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