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イゴール・プレトナー『Wild Growth』スロヴェニア、優柔不断な次期領主との禁じられた愛

イゴール・プレトナー(Igor Pretnar)長編二作目。スロヴェニア映画鑑賞会企画。18世紀スロヴェニアの田舎町カルニツェの次期領主オジュベイは新しい女中メタと恋に落ちた。しかし、それは許されぬ恋だった…と続く割に厳しいのかガバガバなのか分からない対応によってズルズルと関係が続いていく。なにせメタが解雇されても鞭打ちにされても手を焼かれても不屈の心で愛し続け、気付けば二人の間には五人も子供生まれていたのだ。これには毎回子供の名前をオジュベイにしないように阻止していた神父も"さすがに五人目はオジュベイにするよ?"とオジュベイ父を脅し、白眼視していた周囲の人間たちもドン引きして結婚を支持するまでに至る。基本的にどっちつかずな態度だったオジュベイも悪いっちゃ悪いが、彼はちゃんと"後継者は弟に譲ります"と父に言っていた。寧ろ事態が悪化したのは、この優柔不断な父親が優柔不断な息子の一世一代の決意に対して"体裁が悪いから"と許さず、それなのにメタとの逢瀬も強く止めなかったからだ。この間、オジュベイは無理矢理別の女性と結婚させられそうになって結婚式当日に逃げ出しており、その時点で体裁もクソもねえだろと。遂には最後まで結婚を認めない旧来の権力(荘園領主一家とキリスト教)と彼らの結婚を認めてあげようという新勢力(主に農民たち)の間にある亀裂が可視化され始める。とはいえ亀裂程度なので何かをするには至らず、最終的に"この仕打ちは絶対忘れない、今は駄目でもいずれ不正義は裁かれる、なんなら増えてるだろう子孫たちの手によって!"という政権批判とも取れそうなメッセージへと落ち着く。なるほど興味深いが、オジュベイがずっと無力感に苛まれた顔でウロウロしてるだけで存在感ゼロなので、どうも求心力に欠ける作品ではあった。撮影監督 Mile de Gleria (他にボシュチャン・フラドニクの作品などを数本手掛けた人物)による、ベルイマン(というかスヴェン・ニクヴィスト)に影響を受けたような陰影とか風景のショットが多く、これも興味深い。60年代というとスロヴェニアでも1961年にヌーヴェルヴァーグ直撃映画『Dancing in the Rain』が公開されている他、どの国でもヌーヴェルヴァーグ的新世代の波が押し寄せている頃だが、題材的にもベルイマンを取ったか、と。

・作品データ

原題:Samorastniki
上映時間:96分
監督:Igor Pretnar
製作:1963年(スロヴェニア)

・評価:60点

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