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ロルカン・フィネガン『ビバリウム』規格化されたステレオタイプへの薄っぺらい反抗

ジェマとトムのカップルは家を買おうと不動産会社を訪れ、奇妙な販売員にヨンダー(Yonder)と呼ばれる郊外の家へと案内される。そして彼らは全く同じ色/形の一軒家が所狭しと立ち並び、絵に書いたような形の雲が空に浮かぶという不気味な"郊外"から逃れることができなくなり、仕方なくそこで暮らすことにする。『"アイデンティティ"』や『恋のデジャ・ブ』を"ステレオタイプ"の寓話へと投げ飛ばしたような作品で、気味悪いほど単純化され規格化された人間生活が並べられる。テレビを付けると毒々しい斑点しか流れない、毎日味のしないチルド食品を食べさせられる、親を規範として子供は見て真似し続ける、よく分からない本を拾ってくるなど、日常生活のあるある批判をこれでもかと盛り込んでいる。

勝手に授けられた"望まぬ"子供を育てることについて、ジェマはノイローゼになりながらそれを仕方なく受け入れ、トムはそれを無視/拒絶して仕事(穴を掘り続ける)に熱中することであらゆる責任を放棄する。そして、トムはそのまま目的の見えない仕事を続けたせいで、果てには心労が祟って過労死する。こういった露骨な直喩を羅列していき、良い意味で不気味だが反面あまり品のない作品が出来上がった。後に現れる"別次元"のカップルたちや、今後も"少年"によって捕獲されていくであろうカップルたちも、古い時代の規範や慣習に絡め取られ、それらに束縛された人生を送り続けるということなんだろうが、それくらいのことは改めて語り直さなくても知っているわけで、こうも露骨な嫌がらせをした終着点までステレオタイプにするのは、皮肉としては面白いがシンプルにヌルいし下らない。

この監督は『Foxes』という以前の短編でも規格化されたサバーバン地域で暮らす夫婦を描いていた。強い恨みでもあるんだろう。

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・作品データ

原題:Vivarium
上映時間:97分
監督:Lorcan Finnegan
公開:2020年3月27日(アメリカ)

・評価:40点

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