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ラモン・チュルヒャー『ストレンジ・リトル・キャット』画面を支配する犬と猫

人生ベスト。ある秋の土曜日に親戚一同が狭いアパートに集合する話。すぐに寝ちゃう祖母を囲んだディナーを作るにあたって買い出し担当やら洗濯機の修理担当やら送迎担当やら仕事を分担しながらだんだん集結していき、最終的にディナーを楽しむというもの。同時多発的に様々な内容の会話をする家族を描いているため、比較的短尺ながら濃度は中々濃い。それは久しぶりに会った家族それぞれが互いに"元気?"と尋ねる定型文に始まり、隙あらば大声を上げる最年少クララに対する"おばあちゃんが寝てるのよ(静かにしなさいの意)"、事あるごとに叫びだす犬に対する"止めなさい!"、太りすぎて階段が使えない上階の住人が窓から垂らす袋に対する"なにあれ?"という言葉の連鎖、そして親指から血が出てそれを鼻に付ける、ボタンが取れかかっている、ミキサーを回すとクララが叫びだすといった伏線になりそうもない細かいエピソードに至るまで、徹底的に繰り返される。まるで狭い部屋の中に投げ込んだ様々な色のボールが、壁や天井で反射しまくっていくカオスを覗いているような鮮やかさ。そんなカオスの思わぬ瞬間に猫や犬、そして蛾が画面に侵入し、人間たちに次の行動を取らせるのが上手い。実際に画面に侵入することもあれば、画面外から注意を引くこともあり(鳴き声や目線移動で場所が存在が分かる)、まるで彼らが時空を制して物語を率いているようにも思える。

厳格な画面構成、何気ない日常生活の繰り返しと言えばシャンタル・アケルマン『ジャンヌ・ディエルマン』だが、本作品は上記の通りもっとカオスで、誰が誰に向けて話しているのか、誰を映して誰を映さないのかという選択がハッキリしているので、目眩がするほど濃い時間を過ごせる。そんな中で最も印象的だったのは、カリンの話を遮るようにミキサーを回したり、いきなり映画館でのエピソードを語り始める母親のシーンだろう。ゾッとするほど穏やかな、しかしどこを向いているか分からない目線は、本作品の不気味な一面を象徴している。

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・作品データ

原題:Das merkwürdige Kätzchen
上映時間:72分
監督:Ramon Zürcher
製作:2013年(ドイツ)

・評価:100点

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