見出し画像

フランツ・オステン『南国千一夜』賭け事もほどほどに

1907年、31歳のフランツ・オステン、基フランス・オスターマイヤーは弟のペーターと共に"オリジナル・フィジオグラフ・カンパニー"と呼ばれる巡回映画館を設立した。これはドイツ最大の映画スタジオであるバイエルン映画スタジオとして今日に残っている。彼はそこで短編ドキュメンタリー映画を上映していたが、すぐに映画撮影に興味を持ち始め、1911年には初の長編『Erna Valeska』が完成する。第一次世界大戦でキャリアは一時中断されるも、終戦後はすぐに映画界に復帰している。ロンドンで活動していたインド人の弁護士ヒマンス・ライから接触を受けたオスターマイヤー兄弟は、スタッフを連れてインドへ赴き、13年の間で19本もの映画を撮影することになる。彼は同時代の欧州の映画監督とは異なり、ハリウッドではなくボリウッドの発展に多大なる貢献をした人物なのだ。彼のキャリアの中で一番有名なのは本作品だろう。当時大ヒットしたから、インド映画の物語や衣装やセットなどが豪奢だからなど理由は様々考えられるが、一番は本作品が"死ぬまでに観たい映画1001本"に掲載されたからだと思う。その点、例の本が歴史書として一つの作品の価値を広めた稀有な例とも言える。

本作品は「マハーバーラタ」の一編に着想を得ている。ランイットという男の治める隣国の領地を欲する豪族ソハットは、狩りに出たランイットを毒矢で射る。ランイットは近くで暮らしていた隠者の家で看護を受け、その家の娘スニタに恋い焦がれるようになる。という三角関係を描いたロマンス映画である。英題『A Throw of Dice』とはランイットの賭け事好きに由来しており、何度もソハットに騙されて命を狙われる彼の軽率さやそれを含めた"若さ"の象徴、或いは賭けを持ちかけたソハット側の不正をも示唆している。

インドの豪族が主人公なので後の『チャルラータ』や『音楽サロン』などの作品に見られる豪邸や衣装の豪華さや文化背景、インド映画特有のエキストラ数(数千人と言われている)など、既に様式が完成されているのには驚かされる。

・作品データ

原題:Prapancha Pash / A Throw of Dice
上映時間:74分
監督:Ftanz Osten
製作:1929年(インド)

・評価:60点

よろしければサポートお願いします!新しく海外版DVDを買う資金にさせていただきます!