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イサ・チョシャ『Kukumi』コソボ、自由とは寛容とは平和とはなにか

大傑作。コソボ紛争終結後に初めて製作された長編作品。製作当時はコソボ共和国として独立しておらず、セルビアの一部だったようで、クロアチアのヤドラン・フィルムから機材を借り、キャストとスタッフは無給で製作したらしい(最終的にコソボ政府から助成金をゲットしたようだ)。監督イサ・チョシャ(Isa Qosja)は"コソボ映画の父"と呼んでもいいレベルのレジェンドらしく、本作品は彼の17年ぶりの監督三作目となる。大きく開けた窓から大雨の音が聞こえてくる冒頭では、ベッドに寝る老人を開かれた窓から観察するような目線がフッと外れ、カメラは雨の中に繰り出していき、ずぶ濡れになりながら外壁により掛かる人々を捉える。彼らは精神病院の患者たちであり、ククミと呼ばれる主人公の男もここで生活している。大雨、精神病院、民族音楽、少ないセリフ、スローなカメラワークとなれば思い出すのはドン・アスカリアン『コミタス』だが、同作ほどタルコフスキー的なエレメンタル要素もセルゲイ・パラジャーノフ的な民族要素も中心には置かれていない。また、同作が湿っぽい絶望感とノスタルジアに支配されたが、本作品の風景は題材と状況の仄暗さに比べて圧倒的に明るく開放的なので、そのギャップから生まれる残酷さが際立っている。

1999年のコソボ、停戦協定が結ばれたという知らせを聴いた精神病院の職員たちは職場から逃げ出し、患者たちも開かれた門から外の世界へと旅立っていく。そんな中で、ククミは同じ病院で暮らしていたマーラ、ハサンと共に旅に出ることとなる。三人の旅は衝動的なもので、適当に歩いて見つけたトロッコに乗ってみたり、見つけた湖に入ってみたりと様々な場所をフラフラし続ける。彼らの自由な旅は彼らの中だけで完結してるから可能なのだと言わんばかりに、三人は自分たち以外の人間と出会うことで、根強く残った不寛容という名の迫害を受けることとなる。それでも尚、三人は明るく振る舞い、ありのままの自分でいられる場場所を求めて彷徨い歩く。ちなみに、戦時中も病院にいた彼らはコソボに残り続けた人々を示し、戦争後に戻ってきた人々と対比させているらしいが、そこまで明白な描写もなく、私には分からなかった。

本作品が興味深いのは、やはりショットの強さだろう。『コミタス』っぽい冒頭も素晴らしいが、三人が遊ぶ廃採石場やククミが走って逃げる草原(うろ覚えだが『アバンチ・ポポロ』でこういうシーンあった気がする)など、自然風景の中に人間を置くロングショットが抜群に上手い。そして、明るい。風景の明るさと三人の明るさは呼応していて、周りの人間の彼らへの対応の陰湿さと対比されている。

ちなみに、コソボ初のアカデミー国際長編映画賞代表に選ばれた『Hive』で主人公を演じた Yllka Gashi がハサンの兄嫁役で出演している。

・作品データ

原題:Kukumi / Shackled
上映時間:107分
監督:Isa Qosja
製作:2005年(コソボ)

・評価:90点

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