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アントニオ・カンポス『Simon Killer』衝動的行動者、潜在的殺人者

五年来の恋人ミシェルが浮気していることを知って別れたサイモンは、気分転換にパリにやって来るが、上っ面だけ旅行気分を味わっても全くミシェルを忘れられない日々が続く。しかし、その行動はおおよそ女々しく元カノを思い続ける優男とは違っている。ルーブルやオルセーに行ったり、エッフェル塔に登ったりするシーンは心ここにあらずのような状態で数秒しか登場せず、まるで潜入スパイが不審さを取り繕うために行動しているかのようだ。そしてて、ミシェルに対する未練たらたらな手紙が読み上げられたすぐ後に、オンラインセックスに興じたり、夜の街に繰り出して映画館やバーでは女性を物色するように油断なく辺りを見回してたりしている。彼は次の獲物として娼婦のヴィクトリアに狙いを定め、わざとチンピラにボコらせた傷を見せて彼女の家に転がり込む。

カンポスは Joran Van Der Sloot による身勝手な殺人に着想を得てサイモンのキャラを創造したらしい。映画からはサイモンの思考を読み取ることが出来ない。彼の行動は短慮であるが、自身の欲望にだけは忠実で用意周到、手の届く範囲にいる人間は自分の所有物であるかのように振る舞う。終いには街で再会した超かわいいマリアンヌちゃん(コンスタンス・ルソー!!)とのデート資金をヴィクトリアから徴収する始末。要するにクズなのだが、よくよく見てみてると彼はクソガキが動物のまま大人になった姿であり、"あの木になってる実が美味しそうだから"みたいな感じのフワッとした思考と重大な部分が欠落した良心に従って行動しているのだということが朧気にわかる。その子供っぽさを象徴するように、彼はマザコンでもあり、打ち捨てられた彼が最終的に助けを求めるのは遠く離れた地に暮らす母親なのだ。

彼の寄生相手は時間を経るごとに変化していくが、結果的にパリで優雅なヒモ生活を堪能することは諦める羽目になる。そうすると思い出すのはやはりミシェルであり、彼は再会することを誓ってフランスを去る。しかし、ここまでの経験を踏まえると彼の言動は不審な点だらけで、ミシェルが本当に恋人だったのかも怪しくなってくる。実はサイモンが勝手に恋人だと思ってるだけで面識はないとか…?これから起こるかもしれない犯罪を思うと背筋が寒くなる。

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・作品データ

原題:Simon Killer
上映時間:105分
監督:Antonio Campos
製作:2012年(アメリカ, フランス)

・評価:70点

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