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クリストバル・レオン&ホアキン・コシーニャ『オオカミの家』チリ、洗脳アニメ映画の恐怖

大傑作。チリの山奥で形成された逃亡ナチ党員たちによる理想郷コミュニティ"コロニア・ディグニダッド"で偶然発見された作品を監督二人がチリ政府支援の下でレストアし、映画内での行動を取らないよう啓発するために製作された作品という『ロリータ』並に面倒な体裁を持った作品。コロニーで育った少女マリアが、コロニーを抜け出し、彼女を追うとされる"オオカミ"に怯えながら逃避行を続けるさまを独特なコマ撮りで表現した作品である。"独特な"手法としたのは、実写の部屋と家具を使いながら、壁中に人やモノが描かれる二次元絵画と、壁画が床を伝って人形を形成し動き出す三次元絵画の両方を頻繁に往来するからだ。この往来が良い意味で実に気持ち悪い。例えば、ワンフレームごとに部屋の壁に描かれた絵(人物なり本棚や扉みたいな舞台装置なり)を動かしていくと、一つ前のフレームの色が完全に背景色を上塗りできずに残像が残る形になったり。或いは、主人公マリアは金髪碧眼空色ドレスなのだが、真っ黒な背景色のペンキが髪や顔を、どす黒い涙のように伝って落ちていたり。最も不気味なのは、マリアの顔や人形としての身体などが完成するまでの時間を擬似的な長回しで捉え続けるところだろう。壁一面に描かれたマリアがペールオレンジと金色と空色の絵の具の塊となって床を伝って、そこから木でも生えてきたかのような身軽さで身体の芯→肉付け→細部といった具合にマリアが完成していくのだ。また、人形を動かす際にひび割れた粘土をわざわざ見せつけてから修復したり、顔の色を塗り替えるのにわざわざ目から新しいインクを出したりする意地悪さにも震える。

マリアは家畜の豚を逃したことで罰を受け、それに納得できずに脱走したという設定で、おそらく彼女が逃しただろう豚が登場するのだが、彼らも二次元と三次元を往来しながら、マリアの中で彼らは人間に漸近していく。マリアを含めた三人のか弱い生物は、"その家は何でできている?"と頻繁に聞くオオカミの妄想に付きまとわれ、本作品が薄く「三匹の子豚」に基づいていることが示唆される。しかし、マリアもナチのコミュニティしか知らずに育ったため、豚に対して自分がオオカミにされたのと同じことをしてコミュニティを縮小再生産するという新たな地獄を見せつけてくる。人間が三倍になれば驚きも三倍になり、90分1秒も飽きることなく未知の世界を見せ続ける強烈な世界観にやられてしまう。

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・作品データ

原題:La casa lobo
上映時間:75分
監督:Cristóbal León, Joaquín Cociña
製作:2018年(チリ, ドイツ)

・評価:90点

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