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ローラント・クリック『デッドロック』西ドイツ、ポストアポカリプス系西部劇

60年代から70年代に掛けてのドイツ映画は、ヘルツォーク、ファスビンダー、ヴェンダースを中心に、シュレンドルフ、シュレーター、シュミット、クルーゲ、フォン・トロッタ、サンダース=ブラームス、ジーバーベルグなどの有名な監督(たまにストローブ=ユイレ)を突っ込んで語られる。彼らは国際的な知名度を勝ち得た監督たちだが、その裏には同じように強烈で溌剌とした映画を作る作家が居た。その一人がローラント・クリックである。テレビ局で働くカメラマン出身の彼は、テレビ映画『Jimmy Orpheis』でデビューして以降、ニュー・ジャーマン・シネマの裾野で活動し、エンタメ映画を撮り続けていたのだ。

『アバンチ・ポポロ』みたいなロケーションが圧倒的に勝利している炎天下の砂漠を歩く撃たれた男キッド。奪った大金を入れたボロボロのスーツケースを抱えたキッドは"デッドロック"という寂れた炭鉱町に流れ着く。住民は薄汚れたおっさんと唖者の娘ジェニー、腐れ縁っぽい元歌手のおばちゃんのみ。金なんて持っててもなんの役にも立たないポストアポカリプス的世界で、一丁しかない銃を持ったほうが勝ちというパワーゲームを開始する。この唖者の娘というのが、『あやつり糸の世界』などに登場したマーシャ・ラッペンであり、もしゃもしゃの髪にボロボロのワンピースという世紀末感溢れる出で立ちで、映画としても彼女を大切に扱うべく最も美しいショットを使っていることが分かる。特にガメつい行商のエンゾが現れるシーンでは、ボロボロの部屋でボロボロのピアノに手を置く彼女にヌルっと近付くという艶めかしすぎるショットで感動的。

するとそこにサンシャインという名の全くサンシャイン感のないガリガリのおっさんが現れ、哀れなチャールズを仲介させることでゲームにもうひとりの強力なプレイヤーが登場することになる。多分、サンダンスをチラ見してる。現代的なウエスタンでありながら、場末感漂う人気のない町にジュークボックスから流れ出す魅力的でノスタルジックな音楽。馬の代わりとなる車と、西部劇と本作品を繋ぐ"鉄道"という移動手段。ポンチョの代わりのコート。など、旧世代の映画を感じさせつつも新時代を予感させるサイケな世界が展開されている。言うなれば、"ニュー・ジャーマン・ポストアポカリプス・ウエスタン"か。長いけど。

二人を欺こうとしたチャールズは列車に乗って逃げ出そうとするが失敗し、低速な車に追いかけ回された挙げ句轢殺される。しかし、プレイヤーが一人減ったところでゲームは走り続ける。風が吹きまくり、ボロ部屋に砂塵が舞う中、やたら雨戸をバタバタさせる暗示的な映像で中にいるキッドとジェニーのあれやこれやを妄想させる変態的なシーンを挟んだ後、サンシャインは抜け駆けして町から消えるが失敗する。キッドとジェニーが言葉もなく向かう合う切り返しのど真ん中をカメラが横切ると、その先からサンシャインのトラックが突進してくるシーンから流れるように崩壊が進む。そして、全てを破壊し尽くすラスト。金が金として機能しない世界での暮らしに慣れてしまったせいか、マクガフィンがマクガフィンとしての機能を失うという自由すぎる終わり方に痺れる。

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・作品データ

原題:Deadlock
上映時間:85分
監督:Roland Klick
公開:1970年10月15日(西ドイツ)

・評価:80点

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