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マティ・ディオップ『Snow Canon』少女が大人の世界に触れるとき

カンヌ国際映画祭予習企画第三弾。今年の第72回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に初長編が選出されたマティ・ディオップ / マティ・ディオプ(Mati Diop)。セネガルの有名な映画監督ジブリル・ディオップ・マンベティの姪であり、本人もクレール・ドゥニの『35杯のラムショット』などで女優としても活躍している。映画監督としては2004年に発表した『Last Night』以降少し間が開くが、『Atlantiques』(2009)、『Snow Canon』(2011)、『Big in Vietnam』(2012)、『千の太陽』(2013)、『Liberian Boy』(2015)とコンスタントに短編映画を撮り続けていた。そんな中で昨年MUBIで紹介されたのが久し振りの監督作『Atlantiques』と次の『Snow Cannon』だった。

今回は『Snow Canon』をご紹介。『Atlantiques』『Big in Vietnam』もオマケ程度に付けておく。

・『Snow Canon』

2011年2月、フレンチアルプスのシャレー。主人公のヴァニーナは典型的なティーン少女である。海に行けなかったことへの後悔なのか、暖炉の前で水着になって肌に日焼け止めクリームを塗り、夜はうさぎをモフモフしながら焚火の横に寝転がり、暗いがりでパソコンに向かってエジプトにいる友人エロイーズとチャットで会話する。隣のシモンってカッコいいよね、トニーとはどうなったの?、こっちは死ぬほど暑い、羨ましいわ等々。このチャットが画面全体に現れるシーンが冒頭の半分近くを締めている。これが効果的かどうかは微妙なところだが、対比を考えるとまぁ納得は出来る。後にエロイーズとの会話が無くなる対比は、現実に満足していたからなんだろう。

葬式に行ってしまった両親に置いていかれ、アメリカ人ベビーシッターのメリー=ジェーンと共に数日間を過ごすことになる。ヴァニーナは壁を作りつつも彼女に興味津々で、窓を拭く彼女の太ももを眺めたり、掃除中に彼女のチャットを覗き込んだりして観察している。彼女には彼氏がいるらしい。山頂付近に遊びに来たとき、彼氏からの電話を優先したMJに対して、ヴァニーナはMJを困らせようとする。

やがて失恋したMJを慰めたヴァニーナは彼女と打ち解けることが出来、クレオパトラの格好をして遊んだり、母親の服やアクセサリーを付けさせてあげたりして遊ぶ。MJとの別れのとき、ヴァニーナとMJは熱いキスを交わす。視点は中学生くらいのヴァニーナにあるので、レズビアンというよりか、性への興味の入り口に立っているという感じか。中学生くらいの時期に特有の淡い感情のゆらぎを、静かな映像によって紡いでいるのだ。

途中で挿入される無表情過ぎるアルプスの岩肌は、ナチュラルな情景には見えないのだが、これはヴァニーナの感情を表している。映画的"感傷の誤謬"とでも呼べば良いのか、ゴツゴツした岩肌は戸惑いつつも"触れ合い"を楽しむヴァニーナの心そのものなんだろう。

遊びまくって散らかった部屋を独りで片付けるヴァニーナで締めくくられる。ディオップ自身の子供時代とも重ねられた少女の一歩だけ進んだ成長が、ここにはあるのだ。

・『Atlantiques』

最新作と同じ原題の短編ドキュメンタリー。命懸けで海を渡るセネガル人不法移民についての物語。浜辺で焚火を囲んだ男たちが家族のことやこれまで/これからのことを語り合う。
最新作もセネガルからフランスへ渡る不法移民の青年の話らしいので、本作品を下敷きにしているのかもしれない。何も言わずに木により掛かる女性のアップシーンが印象的だった。

・『Big in Vietnam』

マルセイユ、監督ヘンリエッタはフランスとベトナムのハーフで、『危険な関係』の映画化作品を息子のマイクと撮影していた。撮影は主演俳優の失踪によって中断、ヘンリエッタはロケ地を離れて彼を探して街を放浪する。適当に入ったアジア系レストランでおっさんと監督がデュエットする謎のシーンのクロスカットで撮影を続ける息子がセットで悪戦苦闘する姿を映す。

金がなかったのか空撮が観覧車からの撮影だった。斬新的過ぎるでしょ。残りは…よく分からんす。

・今回の総括

個人的にはあんまり合わない作家なのかもしれないと思い始めたが、『Snow Canon』は傑作だった。それだけでも十分じゃないか。

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