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熊の飼い方 51

光 27

 自分の部屋に帰ろうとすると、談話室から何やら声が聞こえたので行ってみた。そこでは、島崎、桂木、岡本が話していた。僕は、人の輪に入ることは得意では無いので、扉の近くに行き、横耳で聞いていた。
「人間って死んだらどうなるんやろうな」島崎が唐突に言った。
「天国が地獄に行くんじゃないんですかね。私は確実に地獄ですけどね」岡本が冗談交じりに言った。
「無でしょ。無。だって普通に意識なくなっていくだけじゃないですか」桂木が言った。
「それは面白くないねえ。もっと想像していこ。遊園地みたいなところ行くとか。でも、できれば良いところに行きたいよなあ。てか、昔の偉人とかに会えるんかな。俗にいうあっちの世界で」島崎が天を仰ぎながら言った。
「えー、そうですかあ〜。私はあっちの世界があるのなら、会いたくない人もいっぱいいますけどね」岡本がおどけて言った。
「てゆうか、あっちの世界で自分の会いたい人と会えるなら、何歳の状態なんですかね?やっぱり、死んだ時の歳なんですかね?」桂木が興味津々に言う。
「確かに。自分は全盛期であっちの世界おりたいな」島崎が言った。
「島崎さん全盛期いつなんですか?」
「んー、まだこれからや!」
「私は、生きてても死んでても多分このままなんで、どっちかっていうとどっちでもいいっすね。とりあえず今は生きときたいですね」岡本が言った。
 僕は横耳で聞きながら考えた。僕は死んだらどこに行くのだろう。僕は、一般的な考えで言えば必ず地獄だろう。地獄ではどんな拷問を受けるのだろうか。そんなことを考えていると、気持ちが悪くなった。
しかし、今生きていても楽しみもないし、目標もない。どうすればいいのかわからないまま、「こっちの世界」で日々を送っている。ただ、時間が過ぎている。考えたくなくても考えてしまうのが現在である。他のことを考えようとしても、考えるものはない。
「てゆうか、田嶋さんってなんでここに来たんですか?そろそろ教えてくださいよ島崎さん」唐突に岡本が言った。それを聞いた僕は、心臓が飛び跳ねそうになった。まだ僕の来た理由が分かっていないらしい。
「まあ、もうちょっとしたら言うよ。ちょっと待ってな」
「なんかやましいことでもあるんですか?」桂木が聞く。
「まあまあ、ほんまにもうちょっと待って。ちゃんと説明するから」
 岡本も桂木もいつもと声のトーンと違っていた。どうしても島崎とここにいた時から知り合いというようには聞こえなかった。
 耳を壁に近づけながら三人の話を聞いていた。僕のことをこれから何か言うのだろうか。さらに耳を近づける。
その時、肩を何かに叩かれるような気がして、驚き後ろを振り向いた。
「なんか顔しんどそうやけど大丈夫?」そこにいたのは木村だった。
「部屋の中にいるとなんか気が滅入りそうで」
「そらこんな地下にずっといたら俺でも気が滅入るよ。ちょっとついてきて」
 木村についていった。どうやら出口の方に足を進めているようだ。
「一回外出てき。ちょっとだけでも外の空気吸ったら変わるから」
出たくはないけれど出るしかないと思い、思い切って外に出てみた。地下の扉を木村に開けてもらい、階段を登って行く。どんどんと日光が僕に照りつけている。日差しが真上から僕の体を突き刺す。人々が行き来している。
 僕は生きているのか?死んでいるのか?何も考えず、何もせず、植物のように歳を重ね、枯れていくのだろうか。ビルの合間で、太陽を目指しながら歩く。ただ、太陽だけを見つめて。人々は僕を避けていく。僕が存在しているということが微かにわかる。
 ただ当てもなく歩いた。道が行き止まり、小道に入っていく。あれだけ日差しがあったのに、ここは非常に涼しく日差しがあったということを忘れるぐらいだった。
 小道を抜けようとする。後ろからの足音は聞こえなかった。
 突然のことだった。
 背後から強い衝撃を受け、前に倒れ込んだ。何者かに手を抑えられている。
 二人組の男に、押さえつけられる。
 抵抗する勇気もない。何となく分かった。

 僕はとうとう捕まったのだ。

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