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熊の飼い方 30
影 16
一週間ぐらいだろうか、穏やかな時間が過ぎた。台風一過と似ているのだろうか。嵐が吹き荒れ、この地球上の壊せるものを全て壊し、過ぎ去った後には謝るかのように晴天をもたらす。
「いい天気ですね」ごっさんが休憩時間に話しかけてきた。
「外でボッーとしたいですね」
「僕も思ってました。外で空を眺めながら何も考えないんです。何も考えずに、ただ雲の動きを観察するんです。あ、あの雲ライオンみたい、次は何に変わるんだろうってね」
「子どもの頃はよくしてました」
「雲ってすごいですよね。僕達みたいに大きく揺れ動かないし、急に形を変えることもない。ただゆっくりと形を変えながら動くんです。時に雨を降らしてくれたり、太陽から影を作ってくれたりする気遣いもできる。雲は僕の憧れなんです」
ごっさんは子どものように目尻に皺をつけ、屈託のない笑みで笑いかけてきた。
晴天が一週間続き、僕が取り乱したことは忘れ去られるようになっていた。
作業に疲れると天井を見上げる。鉄のパイプが複雑に張り巡らされている。パイプは表面が所々錆びているものや、銀の膜が貼られているもの、塗装されたものもある。
一つ一つはどこに繋がり、どんな役割を果たしているのだろうか。そう考えながら、パイプを目でなぞっていた。複雑に入り組み過ぎて、途中で分からなくなるということも稀ではなかった。この中に流れているものは何かの原動力があり流れているのだろう。独りで流れるということは決してない。
何かに突き動かされ、何かに後押しされながら動いているのだろう。僕の今動いている原動力とは何なのだろうか。
ただ機械的に動いている。僕を動かしているのは心臓か、はたまた脳なのか。僕もごっさんの言ったように雲のような人間にはなれないだろうか。
考えている間に、手の先で流れているものを見逃した。
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