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Vol.11「みんなの専門性を持ち寄って“思い”を“カタチ”にする/私たちがキヅキランドをつくるわけ」

いよいよキヅキランドのオープンが近づいてきました。これまでキヅキランド通信の「私たちがキヅキランドをつくるわけ」では、キヅキランドがどのようにして生まれたのか、ということを稲盛財団のメンバーからお話してきましたが、今後はキヅキランドの建設に携わっているプロフェッショナルのみなさんもご紹介していこうと思います。まず今回は、制作チームの指揮をとっているクリエイティブディレクターの武井祥平さんとのおしゃべりをお届けします!


学ぶって本来はとってもエキサイティングで楽しいことだと思うから

——2020年の春からスタートしたこのプロジェクトにはいろいろな人たちが参加し、その建設に関わっていただいていますが、武井さんとはプロジェクトのいちばん最初の「キヅキランドのたね」の段階からご一緒しています。

そうですね。もともと、京都市京セラ美術館にある京都賞受賞者の展示コーナーの制作(2020年春)に携わっていて、その際に稲盛財団さんからコロナで2020年のこども科学博が中止になってしまったこと、代わりにウェブサイトという形で何かできないか考えている、ということをうかがったのがきっかけでした。

——武井さんもこどもの学びの場について関心をお持ちで、いろいろなコンテンツを作ったりプロジェクトを行ってきたりしたことを稲盛財団のメンバーが耳にして「ぜひキヅキランドをご一緒しませんか」とお誘いした、と聞いています。

はい、そうなんです。僕は芸術家やデザイナーの作品づくりを技術的にサポートするようなものづくりの仕事を行なっていますが、その他にこれまで、たとえばキッザニアのアトラクションや、ふじのくに地球環境史ミュージアム岐阜かがみはら航空宇宙博物館などの科学館のコンテンツを作ったりしてきました。いわゆる教育とエンターテインメントを融合させた「エデュテインメント」の分野です。

——なぜ、そういったものづくりの傍ら、こどもの学びやエデュテインメントの仕事をしているのですか? もともと教育やこどもの学びについて関心があったのですか?

そうなんです。僕自身、一度就職してからやっぱりやりたい分野に行きたくて、大学院に進学した、地方の普通の家庭の出身者です。そんな僕が大学院に行って気がついたのは、就学格差です。大学院には、圧倒的に恵まれたバックグラウンドで育ち、高等教育の機会を得ている人が多かった。でも、今はネットやコンピューターのおかげで、都会育ちや進学校育ちでなくても、興味を持てば誰でも自分で知識や学びを得ることができる時代です。学校だけではない、誰でも簡単にアクセスできる好奇心を育む場というものが、これからもっと大切になるし、こどもたちに「自分がその気にさえなれば学びのチャンスはいくらでもある」ということを伝えたい、ということを考えてきました。
また、自分が学びたくて大学院に進もうとしていたころ、バスの中で「お勉強がんばらないとね」とお母さんに言われたこどもが「勉強はヤだ」って答えた場面に遭遇してショックを受けて。まだ小学校にも入っていないような子すら、勉強って「嫌なこと」というイメージを持っているのか……と。学ぶって本来は「自分がやりたいこと」を追求する中で、分からないことが生まれて、それを知りたいと思うというとってもエキサイティングで楽しいことだと思うんです。「勉強は嫌なこと」「つらいこと」というイメージを変えたいと考えるようになりました。
そういう思いを持っていたので、稲盛財団さんからキヅキランド——当時はまだその名前もありませんでしたが——のお話を聞いて、自分が考えてきたこととこのプロジェクトが目指す方向は同じだと感じたんです。

どうやったらオンラインでこどもたちが楽しく自由に記述してくれる場を作れるか

——そんな思いを抱いている武井さんを中心に、映像作家の石川将也さん、WEBチームのみなさんやイラストレーターさんなど、キヅキランドにはさまざまなプロフェッショナルに参加してもらっています。武井さんは、このチームの特徴をどんなふうに考えていますか?

みんなその道のプロフェッショナルであるのは当然なのですが、多様なこどもの学びの場をつくりたいとか、選択肢を届けたいというキヅキランドの「思い」に深く共感していて、このシステムを開発して儲けようとかそういうモチベーションではなく(笑)、「新しい学びの場をつくりたい!」という真摯な気持ち、すごく熱意を持って取り組んでいるチームだと思います。映像制作の人や雑誌・書籍の編集者、ウェブデザイナーや教育関連のプロにシステム開発者など、普通のプロジェクトでは交差しない人たちが集まっていて、すごく面白いですね。

——そうですね。いろいろな人の知見やアイデアがどんどん取り入れられて、キヅキランドは進化してきましたね。

最初は、とにかくこども科学博のキヅキノキのように、こどもたちに自由に考えたことや思ったことを記述してもらう場を作るというアイデアから始まって、それをどう表現するか考えました。同時に、世界のいろいろなこどもの教育にまつわるウェブサイトやコンテンツをリサーチしましたよね。こどもたちがインターネットでどういうものを見ているのか、ということについても調べました。それで、やはりウェブならではのコンテンツとなると、動画がいいんじゃないかということ、またただ見るだけでなくなにかインタラクションが必要だということになり……そこに、石川将也さんから「多視点カメラ」のアイデアが出て……。

——そうでした。石川さんのインタビューにもありましたが、オンラインコンテンツとして、視覚体験を拡張することが必要だという考え方をいただきました。

はい。そこからさらに「こどもたちに能動的に動画を見てもらって、ハテナをふくらませてもらうためにはどうしたらよいか」ということを考えていき、もともとの「自由に記述する」ということと動画視聴を組み合わせた「動画に直接書きこむ」というアイデアがWEBチームからもたらされ、その仕組みを試作してみたわけです。

——この「メモれるムービー」のデモ版ができたときに、書きこむのも楽しいし、書きこんだものをみるのも楽しいしで、チームの大人がみんな夢中になりましたね(笑)。こどもたちも夏のワークショップですぐに使いこなして楽しんでくれたので、安心しました。武井さんは、これからのキヅキランドがどんなふうに発展していくといいな、と考えていますか?

そうですね、「ハック」できる余地があるウェブサイトとして発展していくといいなと思っています。キヅキランドには「ハテナをふくらませる場」というコンセプトはあるのですが、使い方としてはひとりひとりが自由に使いこなしてくれるといいなと。たとえば、友達や家族とキヅキを通じてコミュニケーションするとか、僕らが思いもよらないような使い方をこどもたち自身が発明するような、そういう創意工夫を誘発するようなウェブサイトにしていきたいなと密かに思っています。

——いいですね。2021年夏に開催したキヅキランド体験ワークショップでも、石川将也さん、本田隆行さん、なむさん&片野さんと、ワークショップを担当するキヅキセンパイによってちょっとずつやり方が違っていましたし、それによってこどもたちの反応も違っておもしろかったですよね。それぞれの使い方で、はてなのふくらみ方もいろいろ……。そんなキヅキランドがもうすぐオープンです! みなさん、お楽しみに!

Illustration: Haruka Aramaki


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