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Vol.7 本田隆行さんインタビュー「こどもが『自分の頭を使って考えるのは楽しい』って気づける場所は大事」

昨年夏に開催したワークショップは、今年春のオープンに向けた開発のために、こどもたちに一足先にキヅキランドを体験してもらったものです。ワークショップには「キヅキセンパイ」という、科学やアートの世界で活躍する大人が参加し、こどもたちが動画に書きこんだ発見や疑問=キヅキを実況しました。

8月に開催された第3回、第4回に登場したキヅキセンパイは科学コミュニケーターの本田隆行さん。キヅキランド建設のきっかけである「こども科学博」にも立ち上げ時から関わり、キヅキランドにはプロジェクトチーム発足当初から参画していた本田さんに、科学コミュニケーターというお仕事のことやキヅキランドが目指すところについて、お話をうかがいました。

本田隆行さん/科学コミュニケーター
神戸大学にて地球惑星科学を専攻(理学修士)。地方公務員(枚方市役所)事務職から、科学館(日本科学未来館)へ転職し、サイエンスコミュニケーターとして勤務する。現在は、国内でも稀有なプロの科学コミュニケーターとして活動中。「科学とあなたを繋ぐ人」として、科学に関する展示企画、実演の実施・監修、大学講師やファシリテーター、行政委員、執筆業、各メディアでの科学解説など、なんでもこなす。著書・監修に『宇宙・天文で働く』(ぺりかん社)、『もしも恐竜とくらしたら』(WAVE出版)など。www.sc-honda.com


——8月から始まるキヅキランド体験ワークショップでは、本田さんには8月18日(水)と25日(水)にキヅキセンパイとして参加いただきます。そこで、今日はまず本田さんのお仕事「科学コミュニケーター」とはどんなお仕事なのか、ということからうかがおうかと思います。

本田 科学コミュニケーターって何かというと、科学という専門的な領域と、生活や企業、社会などといった専門外の領域をつなげる仕事です。たとえば展示を見にきた一般の人たちに科学を身近に感じてもらうのはもちろん、専門的な研究をする科学者に「今、社会はこんな動きで、一般の人たちはこんなことを感じています」ということを伝えることもあります。科学と社会の間に立って、この両者の距離を変えていく、というイメージです。

——両者の距離を変えると、何が生まれるのでしょうか?

本田 距離が変わったり視点がずれたりすることで、自分の頭で考えてみたり、疑問や思いを相手に伝えようとしたり、あるいは相手の話を聞こうと思ったり……ということが起きて「対話」が生まれます。その対話をきっかけに、それぞれ自分自身の立ち位置から、科学と社会のより良い関わり方みたいなものが考えられるようになる、というのが理想的ですね。展示やワークショップなどを企画してそういう場をつくるのも、科学コミュニケーターの役割のひとつです。

——昨今は「こどもの理科離れ」が進んでいると言われています。科学コミュニケーターとしての経験から、このことについてどう思いますか?

本田 そんなことはないと思います。むしろ大人が理科離れしていて、それがこどもの話にすりかわっているだけじゃないかな、って思ってます。勤めていた日本科学未来館にはたくさんの親子が来ますが、こどもが「わあ、すごい! 面白い」って言う以上に、親の方が盛り上がってハマッていくパターン、けっこう多いんです。

——つまり理科離れの問題って、好奇心のかたまりであるこどもに大人がどう寄り添うかということなのかもしれないですよね。こどもが科学と出会うとき、大人はどうサポートすべきだと考えていますか?

本田 こどもは、ある年齢になれば学校で理科を習い始めますよね。でも、それよりもっともっと前から生活の中で、いろんな自然現象だったり科学的な現象と触れ合っているわけです。それを見過ごさないように、ちょっと呼びかけてあげる。科学に触れさせるというよりは、いろんな身の回りの不思議に自分で気づいて、それについて自分の頭で考える機会をつくってあげるっていうのが、まず第一かなと思います。

大人って結構「知らないことを教えてあげよう」っていうスタンスになりがちなんですけど、そうするとこどもに「知らないことは恥ずかしい」と思わせちゃうんですよね。だから、科学コミュニケーターとして僕は「知らないことがあるってすごいじゃん! 一緒に考えてみよう」と、こどもと同じ目線で知らないことを楽しむ、ということにすごく気をつけていました。

2019年に開催された「こども科学博」の様子

フラットな場として、どんな人でも参加できて向き合えるような仕組みを目指して

——そういった科学コミュニケーターとしての経験をキヅキランドにも活かしていただこうと、本田さんには立ち上げの当初からプロジェクトに加わっていただきましたが、このキヅキランドというプロジェクトのあり方として、本田さんが意識してきたことはなんですか?

本田 さっきの「教えてあげよう」じゃないですが、とにかく「押し付けがましくないもの」であることです。フラットな場として、どんな人でも参加できて向き合えるような仕組みになったらすごく素敵だなと思っていましたね。何の気なしにふっと手を伸ばせるくらいの気軽さがあって、ハマって楽しめる要素もあって、それぞれの関わり方ができるようなものであって欲しい、と考えていました。

——紆余曲折を経てたどりついたのが、キヅキランドの「メモれるムービー」です。この動画に書きこむという体験はどうでしょうか? そういう部分は実現できたと思いますか?

本田 なによりまず、これはすごく変わった体験です(笑)。やってみて、動画に何かを書きこむっていうのは結構頭を使うんだなって気づきましたね。普段、いかに何も考えずに動画を見ているか! 科学コミュニケーターの役割である、普段見過ごしがちなものに立ち止まって光を当ててあげたり、一緒になって考えたりっていう、そういうエッセンスがキヅキランドには入っていて、うれしいですね。気軽さと深さも持ち合わせることができそうなんじゃないかなと思っています。

——このキヅキランドが完成して、またこども科学博も開催できるようになれば、オンラインとリアルとふたつの場ができますね。

本田 そうですね! こどもが「自分の頭を使って考えるのって楽しい」って気づける場所があることはすごく大事なんです。ただ、学校ではどうしても学習指導要領があって時間内に決まったことを学習しないといけない。だから、それを補完する形で学校以外のところでそういう場がいろいろあればいいと思うんです。

今の小学生が大人になる頃って、「それ習ってません」っていう言い訳は通用しない、自分の頭を使って考えないと太刀打ちできないような世界になっているはず。だから、今からいろんなことに疑問を持ったり「どうなんだろう?」って考えたり、自分の頭を使えるようにしておくことは、本当に大切だと思ってます。

……大人にしてみると教えた方が楽なんですよ。でもキヅキランドはあえてそうせず、こどもが自分の頭で考えるっていうことを楽しく体験できる場所、仕組みとなっていると思うので、たくさんの人に参加してもらえるといいなと思います。

——キヅキランド体験ワークショップ、開催に向けて参加者募集中ですが、本田さんが期待していることはなんですか?

本田 動画を見始めてから最初の書きこみをするまで、つまり手が動き始めるまでってちょっと時間がかかるんじゃないかと思うので、そこでどんなことをしゃべろうかな、と考えて緊張しています。しゃべったことに対してなにか書きこみという形で返答が来るコミュニケーションは初めてなので、楽しみです!
(インタビュー収録:2021年7月14日)


科学コミュニケーターの本田さんのおはなし、いかがでしたか? 次回の「キヅキランド通信」では、本田さんがキヅキセンパイとして登場したワークショップの様子をお届けします(3月9日公開予定)。よかったらぜひこのnoteをフォローしてください。
それではまた!


Illustration: Haruka Aramaki


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