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なぜ水が豊富でも水道が制限されるのか:資源の呪いで読み解く社会構造

1994年、日本では歴史的な水不足により全国各地で渇水が発生しました。私の地元福岡でも計画的な断水が実施されました。

当時小学生だった私は、タンクに貯めた水で歯を磨きながら、断水とは煩わしいものだな、と思ったのを覚えています。

あれから20年が経ち、私は今イラク国内のクルド自治区で仕事をしています。

同自治区の中核都市であるスレイマニヤ市では、各家庭にタンクが常設してあり、水道水はそれに貯められて使われます。水道の利用時間が一日4時間に限られているためです。

私は初めにこれを聞いた時、中東が乾燥地帯であることと、地元の断水の経験から、やはり渇水が理由であろうと考えました。しかしこれは間違いで、本当の理由はもっと興味深いものでした。

スレイマニヤの上下水道局の話では、同地は多くの河川を有し、市民が生活に使う程度の水には困らないそうです。しかし水道を24時間供給すると、市民が洗車などに大量の水を使ってしまうため、政府が供給時間を管理することで市民による水の無駄遣いを防いでいるというのです。

人口増加や生活様式の変化に伴い水需要が急増しているにも関わらず、水道料金が土地面積に応じて定まる定額制であるために、市民に節水のインセンティブが働きにくくなっているのです。

ではなぜ水の使用量に応じて料金が変動する従量制を導入していないのでしょうか。

資源の呪いという経済理論があります。天然資源を持つ国ほど、経済発展や工業化が遅れるという仮説です。

イラクは世界有数の石油埋蔵量を誇る資源国です。イラクの国家歳入の9割は石油収入でまかなわれており、政府はそれを原資に水道や電力や医療、教育など多くの社会サービスに補助金を出しています。

一見羨ましくも見えますが、おそらくこの状況が堅実な料金管理体制の発達を妨げてきたのではないかと思います。つまり、従量制の導入には水道メーターの設置や検針員の確保など、より高度な技術や仕組みが必要ですが、これまで積極的に整備されてこなかったのでしょう。

石油という資源を持っていたことが、結果的に市民の水道利用に制限をかけているとすればなんとも皮肉な話です。

真鍋希代嗣(イラク在住)

※この文章はワシントンDC開発フォーラムに2014年9月に寄稿したエッセイ「水と油」を転記したものです

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