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Vol 2. 文化の効率的継承。「突き詰める」と「広める」のバランス感覚

オンライン空間のちいさな器の商店街「ソーホー」が運営する、スモールビジネスの今と未来を探るためのポッドキャストシリーズです。第2回目は、ゲストにOne Rice One Soup株式会社 代表取締役兼カリナリーディレクター中東篤志さんを迎え、「作る」の外にある職人の道、「突き詰める」と「発信する」のバランス感覚、そして後世につなぐための本質の残し方についてお話を伺いました。

中東篤志
京都市出身。代々料亭を営んでいる家系に生まれる。12 歳の頃から、父のもとで料理を学び始めるが、高校卒業後、バス・フィッシングのプロを目指すため、アメリカへ移住。23 歳になる頃、料理一家で育ったという自分自身のバックグラウンドを意識し始め、料理の道への復帰を決意。ニューヨークにある精進料理店で副料理長兼GM を務める。日本で育まれる飲食文化の海外発信に専念する為、29 歳でカリナリーディレクター(Culinary Director)としてOne Rice One Soup Inc.を設立。現在はニューヨークと京都を拠点に日本食のイベント企画や飲食店のプロデュース、運営、食からの地域創生事業などを手がけており、一般社団法人3000の代表理事も務める。

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名門料理人家系からバスプロへ。回り道して行き着いた「カリナリーディレクター」の道


父や兄弟、親戚の多くが料理人や食に携わる仕事をしているという生粋の料理家系に生まれ育った中東さんは、京都は銀閣寺に店を構える名店『草喰なかひがし』の3兄弟の末っ子として生まれました。小さい頃から「家族が集まったら食の話しかしない」という環境で育ち、小学校6年生からお店を手伝うようになった中東さんですが、中学生に上がると「バスプロになりたい!」という夢を突如抱くようになり、高校卒業後単身渡米。バスプロになるために渡ったアメリカで、「異国の地で異国の食材で和食を作る」その感覚に心奪われていくようになったそうです。


中東さん:アメリカの食材を使って、和食を作って、友達に振る舞うことが増える中で、全く異国の地で異国の食材を使って、和食を作って、それを全然日本人じゃない人に食べてもらうっていうのがどんどんどんどん面白くなってきて。料理をすることもそうですし、「何これ?」って言ってくれる人たちに対して料理を作ることがどんどん楽しくなってきたんですね。それがアメリカで和食を作る面白さの発見に繋がっていきましたね。

そう思ううちに、ちょうどニューヨークで精進料理屋をやるから手伝わないか?と誘われて、それで2009年にニューヨークに移住してその精進料理屋の立ち上げに携わることになりました。その中で、お客さんや現地のスタッフの方々に和食について教えたり伝えたりすることが僕の仕事になりまして、副料理長兼ジェネラルマネージャーとして「和食を人に伝える」という経験が増えてきて。「自分は職人というよりも、料理のことや日本の食文化のことを海外の地で発信することが合っているんじゃないかな」と思うようになって、「人に伝える仕事」というのを自分で始めるために、2015年にOne Rice One Soup株式会社というものをニューヨークで立ち上げました。

そこから「カリナリーディレクター」という風に名乗るようになったんですけど。「カリナリー」という言葉は飲食全てを指す言葉なんですね。なので食べ物だけじゃなくて、飲み物、器、お箸、お膳、テーブルだったり、その空間をどう作るか?といったことを総括してディレクションできる人になれたらいいなぁと思って、そのような肩書きで今色々な活動をしているという形です。


高橋:すごい、、、


清水:しかも喋るの上手いねぇ〜。今の話を聞くと、料理に関してがっつり修行みたいなことははあんまりしていないってことなんかな?


中東さん:してないですね。本当に基礎という基礎はちゃんと教えてもらったというよりも、生活の中や父の店を手伝う中で、知らず知らずのうちに身に付いていたという感じですね。なので、しっかり働くようになって大きな料亭や日本料理のお店で働いていた方々とご一緒するようになってから「あ、普通のお店ってこうするんや!」と学んでいきましたね。


料理という表現で、場と食材に「応答」すること

日本での典型的な料理人修行をせずに、経験や瞬間から自分らしい料理の在り方を形作ってきた中東さんには、ニューヨークという地で料理人としての道をスタートしたからこそ培われた、素材と向き合うユニークな姿勢がある。

清水:ニューヨークで手に入る食材って、やっぱり日本で手に入るものと全然違うの?


中東さん:違いますね〜。まず、日本よりもフレッシュなものが世界中から集まってくるのはもちろんですし、もともとアメリカ原産の現地の食材があったり、色々な人種の方々がいるので、例えば韓国野菜や中国野菜がアメリカ現地で育つことで、独特の形や香りになっていたりします。なので、食材を手にした時に「これ、どう料理しよう?」というその(即興的な)感覚というのがすごく培われるというか、そういう土地ですよね。


清水:なんか、日本とはまたかなり違う感じやね。日本人が日本で料理の勉強をしてても扱わない食材を扱うってことやんな。


中東さん:一番違うなと思うことは、やっぱり日本のスーパーの野菜って全部形も色も揃っているんですけど、アメリカだとそうじゃなくて全然違う形のものが(市場に)並ぶんですね。そもそも同じ形のものが綺麗に袋に入って並んでいることがないので、もうちょっとワイルドな料理の形が求められると思うんですね。


高橋:なんか、中東さんは経験からどんどん学んで適応しいく方なんだなぁ〜と今お話を伺っていて思いました。しっかり修行をされたというよりも、食材に向き合って、その場で即興で考えるというか。その中東さんの気質や創造性が、(自由で多様な)ニューヨークの食材とカチッと一致して、素晴らしい料理ができるのだなぁと思いました。


「作る」の外側へ。オルタナティブな職人の姿とは?

アメリカで日本食と出会い直したことをきっかけに、自由な視点で日本食を捉えてきた中東さんは、「伝える」にフォーカスした取り組みを数々行ってきた。2019年京都にオープンした『そ / s / Kawahigashi』は、「カリナリーハブ」として、食に関わる人々が集い情報共有をする「料理を食べる以上の場」として運営され、中東さんのユニークな思想が反映されている。名門料理家系に生まれたにも関わらず、なぜ中東さんは料理人としての道へ突き進むことを選ばなかったのか?その経緯について伺った。


中東さん:家族皆職人で、僕もやっぱりその気質があって。突き詰めようと思ったらナンボでも突き詰めたくなって、多分動けなくなってしまうんですよね。でも、その間に時代はどんどん進む。きっと器用な人は、突き詰めている間にうまく発信したりできると思うんですけど、なんとなく中東家を見ていると、多分突き詰め始めたらできなくなるなぁと思っていて。

自分が作った料理を直接お客さんに提供して、目の前にいるお客さんを楽しませて喜ばせるのは、自分としても絶対に楽しい仕事だと思うんですけど、でもそれは自分の手で目の前の届く範囲でしかできなくて。それよりも、そういうことを他の人の手を介してできるようになったら、もっと多くの人に届けられるようになると思うんですね。そしてそれこそが、「次の世代に伝え残すための発信」となると思うんです。

僕は、次の世代に残していきたいとか、知らない人たちに知ってもらいたいという「発信」の方を重視しているんですね。でもそういう発信は、若い動けるうちにどんどん色々な人と横のつながりを増やして、色々な人と束になってやっていく必要があると思っていて。なので本当に、真面目に料理人をやってくれている兄には感謝しています。きっと兄が料理人としての道を選んでいなかったら、僕が真面目ぶらなアカンんみたいな気持ちになったと思うんですよね。


高橋:
今「発信」というのが中東さんの日本食との関わり方のキーワードとして出たと思うんですが、日本食のどういうところを特に発信していこうと考えていますか?


中東さん:やっぱり、フレンチとかイタリアンとか色々な料理人が集まったときに「日本料理って難しいよね」という話になるんですよね。


清水:
言うよね〜それめっちゃ聞くわ。


中東:
実際問題、色々な料理がある中で日本料理人志望の人って自国の料理にも関わらずすごく少ないんですね。その理由は大体、「厳しそう」とか「難しそう」とか「決まりが多そう」って言うイメージからくるものなんですよね。それは実際にあると思うんですけ。でも全部のもの作りの仕事って、(日本や外国に関わらず)みんなすごく厳しいと思うんですよ。実際アメリカの料理業界が厳しくないなんてことはなくて、ものとかバンバン飛んでますし・・・

なので日本料理だけが厳しいなんてことはないんですけど、でもその難しさとか厳しさとかを土台としている業界ではあると思うんですね。そしてそのことは、海外の人が日本食を作らないことにも繋がっていると思うんです。こんなに素晴らしいと言われている日本食ですけど、「緻密すぎる」ということが一つの壁となっていると思うんです。

ワインだったら「今年のぶどうこんなやから、こんなになりました、それを楽しもうね」という話だと思うんですけど、日本酒の場合は「こんな米でも、これとこれをブレンドして毎年同し味に作っていく」という風だと思うんです。

ブラさないということが日本食や日本で生まれるものの美学としてあると思うんです。なので、緻密に伝え残していかないといけないし、緻密に教えないといういけないという発想で、修行を10年とかして完全なるコピーを作り出そうという話があると思うんです。

でもそれを同じように海外の人に発信したところで、それはわかるはずはなくて。「すごい、日本人!」と思われるかもしれないけど、それを彼ら・彼女らが再現できるはずもなくて。なので、日本食の魅力をわかってもらうために、日本食の本質の部分を本当に絞ってシンプルにして伝えることが必要なんじゃないかなと思っているんです。


左にご飯、右にお汁。「再現」ではなく「動作」として本質を伝えること

日本食の本質について中東さんは様々な思考を重ねた結果、それは「左にご飯、右にお汁。それをお箸で食べる」というシンプルな動作にあると考えるに至ったそうだ。


中東さん:中のご飯が栗ご飯であっても混ぜご飯であっても、お茶碗にご飯が盛られていて、汁椀にスープが入っていて、それを横に並べたお箸を持って「いただきます」の動作をして食べれば、それが日本食だと思うんです。

ここまでシンプルな動作として落とし込めば、誰でもできると思うんですよね。日本食っていうのは、別に醤油を使うから日本食ということではないと思って、どちらかというとお箸を使って食べることだと思うんです。お箸で食べる前提だからこそ、このサイズに切っとこか〜、とか、このくらいの柔らかさで炊いとこか〜という料理自体の形になっているんだと思うんですよね。

日本食って1000年とか続く中で育まれていて、でもその形っていうのは時代とともに変わり続けていると思うんです。なので、一番大切な普遍的な部分を忘れなければ、あとは今の時代を生きている人たちが想い想いのものを作り出すことが大切だと思うんです。要するに、昔ながらのものを「再現」するのではなく、一番大切な部分だけを指し示すこと。そしてその大切な部分をより多くの人に伝え楽しんでもらうことが、重要だと思うんです。


清水:
面白いな〜。今話聞いてて、(日本食の本質が)お箸なんやなと思って。和食はお箸を基本に食べるから、実は器を作る時の自由度もかなり高いんよね。器作りの人間からすると、やっぱりナイフ・フォークのレストラン向けに器を作る時って制約が多くて。

特に、ナイフのギコギコする音とか。あとは、漆の器にナイフでギコギコするとやっぱり漆がはげちゃうし。あとは、ザラザラしたテクスチャーの器だと、それもやっぱりナイフで食べる場合は気持ち悪い音が出ちゃうから、ツルツルの表面になるような釉薬を使うというような話にどうしてもなっちゃうんですよね。

でもお箸だとそれがすごく自由で。極端にいうと楽焼の器なんて、ちゃんと焼き締めてないので、水を入れると染み込んでしまうような器で、スープとか入れるともちろん漏れるんですけど。でも和食の方々は、例えば器の上に葉っぱを一枚ひいて料理をのせるという方法をするじゃないですか。

やっぱ日本食や陶芸って、そういう意味で「お箸から発展した文化」と考えると面白いなと思いました。


アナログ・デジタル過渡期世代にこそできる「文化の効率的継承」

日本食の本質をわかりやすくシンプルに「動作」として伝えることで、幅広い人種や世代の方々にそれぞれの形で楽しんでもらおうと活動する中東さん。最後に、その軽やかな眼差しで、日本食業界の今や未来をどのように眺めているのか伺った。


中東さん:料理人だけじゃなくて、(一流になるために)時間が無限に必要な仕事ってたくさんあると思うんですよね。あとは自分が何かを作り出す人になりたいから、習得するために無給で経験値を積みたいと思う人が、もの作りを志す人には多いと思っていて。でもちょっと昔の時代って、その想いを都合の良いように使っていた側面があると思います。

例えば、教えられることなのにもったいぶるとか。ちゃんと教えたらわかることまでも「お前にはまだ早い!」とかいったりしていて。もちろんそういうこともある一方で、そうじゃないことで、どんどん後世に伝えていけることってあると思うんです。

僕たちの世代はアナログからデジタルに変わる時に学生だった時代ですけど、今の10〜20代の子達は、どんどん情報をとっていって、自分に取り入れるものと排除するものの判断がものすごい早いですよね。なので、僕たちの世代は、そういう若い世代に伝え残していくために、ネット上にない本質的な部分を(効率的に)しっかり丁寧に伝えていくということが必要なんだと思います。

(効率的に本質的な部分を伝えていくことができれば)時間内で手に職つけながら、その若い子達は成長していくことが可能だと思うんです。

そして、自分にできないことは、下の世代にできる子達がたくさんいると思うので、彼ら・彼女らにやってもらいながら、自分は自分が作れるもの作り、その子達に自分の知っていることを示していくことで、僕らが死んだあとに素晴らしいものが生まれていくと思うんです。それが、デジタルとアナログの間に生きている30〜40代の僕ら世代にしかできひんことやと思うし、ここで僕らがすることが、次の10〜20年の鍵を握っていると思うと、ワクワクすると同時に、責任感をもっと持たなあかんなという想いですね。


清水
:確実に今の若い子らの方がスペック高いもんね。僕ら世代は、もしiPhoneにならせてもらえるならiPhoneの初期やけど、今の子らは最新のiPhoneくらいのスペックを持って生まれてきてるわけで。

というか、むしろ僕ら世代はもはやガラケーみたいな感じで、ガラケーがどんなに頑張ってもやっぱり情報処理能力がiPhoneには勝てへんよね。

とはいえ、僕ら世代にしかできないこともあるはずやから、その世代の間をうまいこと繋げていけたらいいですよね。


中東さん:本当に。絶対に次の時代はくるので、そこまでちゃんとに繋いでいくということがすごく大事だと思います。


清水料理でも陶芸でも、アナログで「ここは絶対にやらなければいけない部分」みたいなのがやっぱり残っていて、そういう職人的な部分で消えないところを、バランス感覚を持ってやっていくというのは重要ですよね。

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日本料理の老舗に生まれ、ニューヨークで日本食と出会い直したことをきっかけに、日本食の本質をシンプルに伝え届けることを志すようになった中東さん。「型の再現」ではな「生活に根ずく行為」として幅広い世代や地域に向けて文化を効率的に継承する。その自由な発想の根底にはいつも「やってみないとわからないではなく、やってみればわかる」という姿勢がありました。行動と経験を繰り返しながら、カリナリーディレクターとして日本食をあらゆる視点で切り取り、演出し、発信し、難解で敷居の高い日本文化のイメージを、「守りつつ変容させる」。その絶妙なバランス感覚と本質を見抜く研ぎ澄まされた感性には、中東さんが自分自身で切り開いた「伝える」という職人道があるように感じました。

中東さん、刺激的なお話をありがとうございました。


テキスト:高橋ユカ

(本記事は2021年9月24日に「Zoom」を使用して収録された内容を元に記事化しています)

▼収録内容の全編はポッドキャストから
Vol 2. 文化の効率的継承。「突き詰める」と「広める」のバランス感覚
Podcast:shorturl.at/hpNX3
Spotify:https://open.spotify.com/show/5rI2OubflZWO1kfTpVnVwa
Google:shorturl.at/koBT8

▼ソーホーWebsite
https://so-ho.shop/

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