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vol 3. 規模の拡大を目指さず手に入れる心地よい速度。スモールビジネスという生き方(後編)

「手の速度でゆこう」はオンライン空間のちいさな器の商店街「ソーホー」が運営する、スモールビジネスの今と未来を探るためのポッドキャストシリーズです。第3回目は、ゲストにコーヒー焙煎家 / エッセイスト / 大山崎COFFEE ROASTERSをパートナーと共同で営まれている中村佳太さんを迎え、自分の心地よい暮らしを作るための仕事、顔の見える関係性、社会へのアクションとしてのスモールビジネスについてお話を伺いました。本記事では、ポッドキャストのエピソードを前編・後編に分けてお届けします。

▼前編はこちらから
https://note.com/kiyomizudaisuke/n/n9e81d07e6d09


中村佳太
京都在住のコーヒー焙煎家でエッセイスト。大学院で地球惑星科学を学び惑星系の成り立ちを研究。、東京の会社でビジネスコンサルティングに従事したのち、パートナーと京都・大山崎へ移住。2013年にコーヒー焙煎所『大山崎 COFFEE ROASTERS』をパートナーと共同で創業。オンラインショップからスタートし、2014年に実店舗をオープン、2018年に現在の路面店へ移転。並行して2013年より『roomie』(メディアジーン)での執筆からライター業を開始するも、その後個人ブログでのエッセイストとしての活動に軸足を移す。雑誌『STANDART Japan』やウェブメディアへのエッセイの寄稿の他、2020年2月よりニュースレター『ナカムラケイタのエッセイ配信』をスタート。主な執筆ジャンルは「資本主義・ポスト資本主義」、「ジェンダー・フェミニズム」、「科学リテラシー」。

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拡大しないと決めることで手に入る、心地よい生きる速度


業界の慣習や既存の手法に囚われず、自分自身の生き方や倫理観に合わせて、パートナーやチームと共に知恵を絞り、自分にとっての心地よい「営むかたち」を作り続けるゲスト中村さんとソーホー代表清水。かつて、特定の人々だけが持っていた「販売する力」が、様々なプラットフォームの出現によりあらゆる個人に与えられるようになった今、スモールビジネスの営み方次第では、自分の理想の暮らしを手に入れることも可能になった。対談の後半で中村さんは、そんなスモールビジネスが持つ「生き方」としての可能性について、視点を共有してくださいました。


中村さん:なかなか10年前くらいまでには難しかった、個人が何かを販売する時にかかる、時間的・スキル的・金銭的コストが下がっているので、始めようと思えばどんな商売でも結構始められるというのは素晴らしいことだなと思っています。

あと、さっき僕が言ったような信頼関係のある範囲でビジネスを行っていこうとすると、今までのビジネスの常識では、(それをしようとすると)ビジネスとして拡大できないんですね。規模を拡大すればするほど、自分達の組織も大きくなるし、取引先の数も規模も大きくなる。そうなると、信頼関係を築くのは難しくなってくる。なので、僕はそもそもその規模の拡大は必要ないと思っているんですね。

規模の拡大をしないと決めれば、色々なことができるし、自分が気持ちよく商売ができるんですね。でも規模の拡大をしたいと思った瞬間に、様々なことを諦めなければいけないし、ストレスも増えてくると思うんです。

僕の考えでは、規模の拡大をしないでそこそこやるってことが昔はすごく難しかったと思うんですけど、今は、小さな規模に留めれば、小さなコストで商売ができる。なので自分達が「このくらいの規模で良い」と決めさえすれば、お客さんの数も大きくなくて良いので、大金持ちにはなれないけど、(スモールビジネスを営むことで)自分達が必要な生活をすることがかつてよりもやりやすくなっていると思います。

もちろん簡単だとは言わないですけど、かつてよりはハードルが下がってきていると思います。そして、そのハードルが下がってきているところに、「規模を拡大するよりも自分達の気持ちの良い暮らしをする」という、搾取的な労働や環境負荷に反対するエシカルな価値観の変化が相乗効果的にあると思っています。そうゆうマインドで商売を成り立たせたい人たちが、既にあるツールを使ってどんどん参入してきてくれれば、未来は明るいんじゃないかなと思います。


清水:
なるほど〜。なんかめっちゃ勉強になるというか、今のは自分のことについてすごく考えさせられる言葉でしたね(笑)


中村さん:え、そうなんですか?いや、僕はソーホーの「一人一人の作り手が直接販売できるようになる」っていうのは、まさにそうだなと思って見ていましたよ。


清水:
いや、そういう人たちが増えて欲しいというのは全くそうなんですけど。じゃあ自分自身がどうかってなると、ある程度の規模に拡大したいと思ってしまっている人間というか。いや、規模の拡大っていうと語弊があるのかな?やりたいことが増えすぎてきていて。

例えば、京都の陶芸学校を卒業した陶芸家達の受け入れ先がないので、うちで少しでも受け入れるべきじゃないかとか。あと、ソーホーとかも、正直TOKINOHAに専念しとく方がすごくコミットしやすいし、やりやすいんですけど、やりたくなっちゃったり。あとはエシカルマルシェとかもですね。

色々なことをやりたくなってやっちゃうと、規模は正直拡大していないんですけど、やることがめちゃめちゃ増えてしまって。これどこかで歯止めをかけるべきなのかな?と思ったりもします。

やっぱり、何かをやるには何かを捨てないといけないな〜と思ったりしますが、まだ40歳だしちょっと無理した方が良いんじゃないか?と思ったりして。色々な考え方がゴチャゴチャしてるんですよね。



社会に対する「アクション」としてのスモールビジネス

Vol.2のポッドキャストを聞いてくださった中村さんが興味を持ったという、「飲食業界の働きすぎ」について。労働環境や賃金、関わる全ての人にとって健やかであるために、小さなビジネスだからこそ実行可能なこともあるという。自分の決断や工夫で社会に小さな変化を起こす「アクションとしてのスモールビジネス」について、実践者ならではのお話を最後に伺うことができました。


中村さん:やっぱりどうしても、小さなお店は働きすぎになってしまうという問題があると思うんですよね。

うちは週休3日にしてるんですね。なんだったら、週休3.5日とかなんですけど。それをできる限り(自分が発信する)SNSとか記事に盛り込んでみたりとか、あとはこういう場で発信するようにしてるんですね。なかなかまだそういうことって言いづらい業界だと思うんですよね。

大企業では働き方改革とかいってますけど、なかなか個人店の飲食の世界とかバリスタさんの世界では、みんなやりたくてやっているところがある業界だったりするので。そうするとどうしても、安い賃金でもやりたいお店だから働かせてもらうみたいな、「タダでも良いから技術を教えてもらう」というそういう考え方になるんですけど、僕はそれはやめていかないといけないと思っているんですね。

きちんと生活できるだけの時間とお金で、働きすぎない。適切な労働時間できちんと収入があるという状態を当たり前にしていかないと、どこかで疲弊してしまうし、エシカルでなくなってしまうと思うんです。

だから「楽しめる範囲で働いていこう。そしてそれは昔は難しかったかもしれないけど、今なら工夫すればできるじゃない、みんな!」という呼びかけをしたくて、わざわざ言っているみたいなところもあります。


清水:
めちゃくちゃ、はい。僕もそれが本当に理想的だなと思っていて。うちも一応しっかりその辺はしているつもりなんですけど。

ただ時間をギュッと圧縮して、1日7時間とかってなったときに、みんなにそれなりのちゃんとした賃金を払うとなったら、走り回って目まぐるしく1日を過ごさないといけないんですよね。

ゆっくりしたペースでもの作りをするというのが本来は良いような気がするんですけど、それだと皆にそれなりの給料を渡せない問題があって。なので、頑張って商品単価を今の1.5倍とか2倍まで上げなければいけないのかな、と思ったりしますよね。


中村さん:
いや、本当にそうですよね。コーヒーの場合は、僕らの前工程にはバイヤーさんがいて、そのさらに前工程には生産国の生産者さん達(農家さん)がいます。なので、全工程に関わる人たちの賃金を上げなければいけないと思うと、そのためには最終的なコーヒー1杯の価格を上げなければいけないし、コーヒー豆の価格も上げなければいけないと思うわけです。

それが上がれば、コーヒーを淹れているカフェのスタッフの方々や僕たちの賃金も上がりますし、そして生産者さん達の賃金も上がるわけです。

本当に、生産国の人たちの賃金の低さは生きるか死ぬかに関わるレベルになっているので、大きな消費国である日本のコーヒー業界は価格を上げることが重要だと思うわけです。

そのときに僕が思うのは、資本主義的にどんどん良い商品を開発することも大切ですけど、「そもそも高いものだよね」ということをわかってもらうための努力が重要だと思うんです。今あるものに味わいをつけて高い価値をつけるというのも良いんですけど、それよりも「そもそも、今あなたが飲んでいるその一杯にはもっと価値がなきゃいけないんだ」ということを業界全体が伝えていくこと。コーヒーを飲む人やコーヒー豆を挽く人の近くにいる僕たちがしていかなければいけないと思うんです。

もちろん明日からいきなり100円アップするというのはできないので難しいですけど、適正な価格をつけるという意識を持つ必要があると思っています。みんなのために。


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スモールビジネスというテーマについて中村さんの深い考察を伺うことができた今回。自分にとっての気持ち良い規模や生きる速度に合わせて、自身の手で「営むかたち」を作りだすお二人には、経営者として、作り手として、そして市民としての力強い姿がありました。関わる仕事を通して、できる範囲から生産・販売過程に関わる人々の環境をポジティブに変革する。その「まずやってみるマインド」には、真っ直ぐなパワーがあり、多くのビジネスを営む方々にインスピレーションを与える回になったのではないかと思います。

お伺いしたいことがまだまだたくさん残るエンディングとなりましたので、再び中村さんをゲストに迎え続きのお話をお伺いしたく考えています。スモールビジネスをライフスタイルと捉える視点、社会を自らの行動から変えていくための具体的方法、実践者ならではの数々の経験談を共有頂き本当にありがとうございました!


テキスト:高橋ユカ



(本記事は2021年11月1日に「Zoom」を使用して収録された内容を元に記事化しています)

▼収録内容の全編はポッドキャストから
Vol 3. 規模の拡大を目指さず手に入れる心地よい速度。スモールビジネスという生き方
Podcast:shorturl.at/dCGR0
Spotify:shorturl.at/csBJT

▼ソーホーWebsite
https://so-ho.shop/

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