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vol 3. 規模の拡大を目指さず手に入れる心地よい速度。スモールビジネスという生き方(前編)

「手の速度でゆこう」はオンライン空間のちいさな器の商店街「ソーホー」が運営する、スモールビジネスの今と未来を探るためのポッドキャストシリーズです。第3回目は、ゲストにコーヒー焙煎家 / エッセイスト / 大山崎COFFEE ROASTERSをパートナーと共同で営まれている中村佳太さんを迎え、自分の心地よい暮らしを作るための仕事、顔の見える関係性、社会へのアクションとしてのスモールビジネスについてお話を伺いました。本記事では、ポッドキャストのエピソードを前編・後編に分けてお届けします。

中村佳太
京都在住のコーヒー焙煎家でエッセイスト。大学院で地球惑星科学を学び惑星系の成り立ちを研究。、東京の会社でビジネスコンサルティングに従事したのち、パートナーと京都・大山崎へ移住。2013年にコーヒー焙煎所『大山崎 COFFEE ROASTERS』をパートナーと共同で創業。オンラインショップからスタートし、2014年に実店舗をオープン、2018年に現在の路面店へ移転。並行して2013年より『roomie』(メディアジーン)での執筆からライター業を開始するも、その後個人ブログでのエッセイストとしての活動に軸足を移す。雑誌『STANDART Japan』やウェブメディアへのエッセイの寄稿の他、2020年2月よりニュースレター『ナカムラケイタのエッセイ配信』をスタート。主な執筆ジャンルは「資本主義・ポスト資本主義」、「ジェンダー・フェミニズム」、「科学リテラシー」。

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「成り立つかどうか」よりも「スタートできるか」が全て


現在京都を拠点に活動する中村さんは、かつて東京でビジネスコンサルタントとして都市的な忙しい日々を送っていたという。なぜコンサルタントからコーヒー焙煎家へとキャリアチェンジをしたのか、まずはそのユニークな経歴についてお伺いしました。


中村さん:仕事がやりたくないとかつまらないとかいうよりは、「自分が思い描いていた日々の生活はこのままじゃ送れないな」と思っていたところに、震災などもあったので。じゃあ二人の暮らし方を見直してみようと思った時に、一つは東京を離れるということと、もう一つは二人で何かお店を始めようという話になったんです。なので、なんでコーヒーになったかというと、実はそこまで深い理由はないんです(笑)


清水・高橋:
ヘぇ〜


中村さん:
2011年に東京を出よう、二人でお店を始めようとなった時に、それこそ二人でたくさん案出しをして。二人とも当時、コーヒー(を飲むこと)は日課としてあったんですけど、そこまでマニアックに追求しているわけではなかったんです。コーヒーが生活の中で好きなものの上位にあったというくらいでした。一年くらいかけて大山崎という場所が最終的に(移住先として)決まるんですけど、それまでの間には、自分たちが住みたい町のイメージを含めながら、どういう商売が良いのか検討していて、コーヒーの中でカフェをやるというアイディアもあったんですけど、近くのカフェで焙煎体験とかをする中で、頭の中に「焙煎」というワードがなんとなく入ってきました。

都会に住む気はなかったですし、静かな町に暮らす時にできることを考えた時に「コーヒー」、そしてその中の「焙煎」であれば、焙煎機さえあれば始められて、しかもいきなり大きなお店を構えたり投資をしなくても、ネットショップからスタートできると思う中で、「コーヒー焙煎」というワードが徐々に浮上してきて、結果的にやり始めてみた。というのがきっかけですね。


清水:へぇ〜。中村さんは、元々ビジネスコンサルタントをされていたわけで、そういう方がコーヒーで起業しようとなった時に、具体的なビジネスとして成立させるための方法とか考えたんですか?


中村さん:
正直言うとですね、、、「スタートできるかどうか」は意識したんですけど、「成り立つか成り立たないか」はあんまり考えなかったですね。世の中でコーヒー豆を販売して生きている人がいる以上、できないものではないというか、世の中に存在しない仕事を始めたわけではないので。

自分がうまくできるかとか、いつになったら軌道に乗るかとか、そういうことはやってみなきゃわかんないだろうな、という感じでした。ダメだったらしょうがない、みたいな。(笑)


清水:
すごいですね〜!でも、何かを始める時に一番良いマインドって実はそれですよね。


中村さん:
そうだと思いますね。その時はコンサルタントの仕事をしていたので、同僚とかに「会社辞めて、コーヒー焙煎屋さんを始めるために京都に引っ越そうと思っている」みたいなことを話すと、周りはビジネスコンサルティングを仕事にしている人たちなので、色々なことを考えだすんですよね。収支がどうとか、売上いくら上げたって原価がどうとか、、、だけど思ったのは、それを言う人たちにやったことがある人はいないわけですよね。

すごく難しいだろうということをアドバイスしてくれる人もいるんですけど、でも、どんな町にもコーヒー豆屋さんはあって、その人たちは成り立っているわけだから、やり方はあるはずじゃないか、という風に思っていました。


自分は意外と頼もしい。「とりあえずやってみる」で成り立った街の商売。


「自分が成り立たせられるかはわからないけれど、やってみてそれなりに頑張れる自信くらいはあります」という濁し方で、ビジネスのプロである同僚達の心配をもろともせず、自身とパートナーとの心地よい生活のため焙煎家としてのキャリアをスタートさせた中村さん。会社員時代には決して見通すことができなかったチャンス、更には自身の思考や工夫に助けられながら、少しづつビジネスを成長させてきたそうです。


中村さん:コーヒー豆屋さんが大山崎町で成り立つかどうかは、賢いコンサルタントの人たちが事業計画書的に考えて真面目に計算しても、ほとんどの場合予想の段階で「これ商売にならないわ」となると思うんですよね。でもほとんどの町の商売は、普通に考えたら成り立たないものを、でもなんとか成り立たせているような感じもちょっとあって。


清水:
ありますよね、そういう感じ。


中村さん:多分、見えていないものがたくさんあるじゃないですか。僕で言えば、最初は「卸し」という存在自体を知らなかったので、コーヒー豆を販売する時にカフェに販売するという発想自体がなかったんですね。言われてみればわかるんですけど、そんなことすら知らなかったわけです。

あとは京都で言えば、マルシェとかマーケットがたくさんあるので、それも京都で商売を始めてみなければわからないことだと思うんです。そういうことって、僕が事前に事業計画書を真面目に作っていたら入れられなかったことだと思うし、それがなければ僕らの最初の数年はそもそも商売として成立していなかったと思うので。

だから、人間が商売を予測できる範囲なんて、どんなビジネスのプロでも限界があって。であるならば、わからないけどやってみて、本当に成立しなければしょうがない辞めるしかない、ということなのかなという気もします。


清水:なんか、中村さんみたいな経歴の方がそういう風に言うと本当に説得力ありますよね。


高橋:ほんっとに。


清水:僕とかは一回も社会人経験せずにここにきてるから、そこまで色々考えずに始めたんですけど、一度社会人経験するとそういうこと考えすぎてしまう部分もありますよね。僕はアホのうちに始めれてよかったな、とすごく思いますけどね(笑)


中村さん:いや、でも本当にそうですよね。意識的にせよ無意識的にせよ、「わかんないけどやってみる」みたいなタイミングがどこかにないと、皆始められないんじゃないかなと思いますよね。

税金計算とかも「税金計算なんて自分にできるわけない!」と思っても、意外と今はネットで調べればなんでもわかるし。いざとなれば人間なんとかするってところって、なかなか会社員をやっているとわからないというか。


清水:真面目って良いことやとは思うんですけど、新しく何かを始める時に僕がアドバイスするのは「とりあえずやる。それが最大のハードル」っていう風に言うことがあるんです。

今までやっていたことをやめて新しいことをやりだすということがハードルで。でもやり始めてしまえば、さっき中村さんが言っていた通り、なんとかなっていくことが結構ある。その一歩目のところを、パパーンッと飛び込めるかどうかが全てにおいて最大のハードルだと、いつも思います。



顔の見える範囲で行う気持ちの良いビジネス


「バイトをしなければヤバイかもしれない・・・」というタイミングもありながら、一つ一つ工夫を積み重ね、お二人で地道にお客さんを増やしていった大山崎COFFEE ROASTERS。コロナ禍での影響もありつつも、現在は実店舗とネット販売を中心に個人のお客さんに愛されるお店へと成長。しかし、今の姿は決して積極的な顧客開拓によってもたらされたものではないそうです。


中村さん:僕ら、なんというんですかね、積極的に卸先の開拓とかは全くしていないし、したこともないので、基本的には日々の業務としては小売を一生懸命やるということにしています。そして、既存の卸先との関係を大切にするために、配達を(自分達で)しっかりやるという風にしているんです。

その中でたまたまどこかで聞きつけてくれた人に出会ったり、誰かが誰かを紹介してくれて新しい卸先が増えることはあるんですけど、卸先を増やそうということは全く考えていないですね。基本的には、今いるお店のお客さんと卸先のお客さんのことしかほぼ考えていないです。


清水:それはあんまり増やしたくないってことなんですか?


中村さん:なんといったらいいんですかね〜。増やしたくないってことはないんですけど。でも確かに、最終的にあんまり増えても困るということもありますね。

というのも、元々のきっかけとして、自分たちの生活しやすいペースを作るために大山崎に引っ越してきてこの店を始めているので、あんまり忙しくなりすぎては困るというのは大前提としてあります。なので、一生懸命営業するということはまずないんですね。

でも、まだ余裕はあるので、卸先が増えたら嬉しいんですけど。なんて言うんですかね、無理やり知ってもらうのがあんまり好きじゃないというか(笑)


清水:うんうん、なんかわかる気がします。


中村さん:どこかでコーヒーを飲んでくれていたり、元々知ってくれていて自分でお店を始めたくなったとか、もしくは誰かの紹介とか。そういう風に繋がった取引の方がすごく気持ちが良いと思うんですよね、商売として。

だからそれ以外の関係で、例えば「知ってください!」と売り込んで、先方が「よしよし、じゃあ使ってやるよ」みたいな関係は、できればない方が良いと思っています。

(卸先が)増えて欲しくないというわけではないんですが、無理やり増やしたくはないという感じですかね。


清水:なるほど〜。なんでこんなことを聞いたかというと、僕の場合陶芸なので、自分が作れるものが100あるとして、それをどこにどう流通させるかで自分のところに入ってくる金額が結構変わるんですね。つまり、卸しにするか直接toCで(お客さんに)売るかということなんですけど。

具体的に言うと「toCで売ると自分に100万円入ってくる場合でも、全く同じ数を卸しにすると60万円しか入ってこない」みたいなことです。僕らの場合、toCと卸しでは明確に同じ商品でも価格が変わってしまうみたいなことがあるんですけど、中村さん達の場合は、どうなんですか?


中村さん:
コーヒー豆の卸しには二つあって。一つは、カフェとかでコーヒーを淹れて提供してもらうために卸すという場合。もう一つは、雑貨屋さんとかで豆を販売してもらうために卸すという、二つのパターンですね。

カフェで淹れるために提供している豆に関しては、ほぼ割引をしていないに等しいんですけど、ただ雑貨屋さんとかで(豆をそのまま)販売してもらう時には、流石にそれだとお店に全く利益がない状態になってしまうので、もう少し下げてやっていますね。

ただ、お金の問題というよりも、豆を販売してもらう卸しの場合、どうしても僕たちの手から豆の管理が離れていってしまうんですね。どういうところに置かれるかとか、どのくらいの期間販売されるかとかですね。こちらからお願いしても、ついついみなさんお忙しいので疎かにされがちなので、豆を豆のまま販売してもらうのは、なかなかしんどいなという感じです。


清水:なるほど。いや、言いにくいかもしれないので、あれだったら無視してもらって全然いいんですけど(笑)

僕も中村さんみたいに、レストランに対して、食事を提供するために使う器と、そのレストランで販売してもらうための器と、価格を変えて卸していたことがあるんですね。使うための器は割引なしで卸して、販売するための器は割引するという考え方で、言ったら二重価格みたいな感じです。でもその時に大揉めしたんです(笑)

先方は数店舗持っている大きな資本のレストランで、尋常じゃない数を販売用として注文してくださったんですね。でもその数は明らかに「新店舗で料理の提供用に使う器だろ」という数だったんですね。

東京のお店だったので自分で確認しに行くことはできなくて、「いつもより0一個くらい多いですけど、これ本当に売る分ですか?」と聞いたら、「はい、そうです」と、まっすぐに嘘をつかれたんですね。


一同:すげぇ(笑)


清水:それ以降僕は、卸しの中で価格を変えるということができなくなったんですね。いや〜、難しいんですよね。


中村さん:
そうですよね。本当に僕らは他のお店がどんな風にやっているかは知らないんですよね。例えば、他のお店が卸し方に価格の差をつけているとか知らずに、業界のことはよくわからないまま、二人で考えながら色々決めてきたんですね。

そういう意味で、僕らも思ったんですよね。卸す価格に差をつけたら、悪意のある人がいたならば、そういうことができてしまうよねって。販売用として購入しますといって、実際には店舗でドリンク用として使うみたいなことができてしまうわけですよね。

だから、信頼できるくらいの関係性じゃないとそもそも取引をしないということが大事だなと思うんです。だからといって、親しくないと取引しないというわけではなくて、もちろんメールが来たりしたら基本的にはスタートするんですけど。

ただやっぱり、京都のお店だと自分達で配達するので、そういうところで普段から顔を合わせていると騙せないというか。なので、ある程度の距離のある関係性とか、大資本とうちみたいな小さな店になると、そういうことって起こってくるだろうなと思うんですよね。

なので、そういうことが起こらない規模感や信頼関係が保てる範囲内が良いという意味で、自分達から積極的に営業をしないとか、人の紹介を大切にするということが大事かなと思っていますね。


(後編に続く)


テキスト:高橋ユカ
(本記事は2021年11月1日に「Zoom」を使用して収録された内容を元に記事化しています)

▼収録内容の全編はポッドキャストから
Vol 3. 規模の拡大を目指さず手に入れる心地よい速度。スモールビジネスという生き方
Podcast:shorturl.at/dCGR0
Spotify:shorturl.at/csBJT

▼ソーホーWebsite
https://so-ho.shop/




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