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春の読み鉄|赤穂線でゆく牛窓〜坂越

乗り鉄、撮り鉄、いろいろあれど
我が鉄道の旅は「読み鉄」なり。

読みたい本がある時、鈍行列車の旅に出るのである。
(ちなみに本来読み鉄というのは、時刻表や鉄道雑誌などを好む鉄道オタクという意味で使われるのが一般的らしい。)

家でじっとしながら読書するより、列車の心地よい揺れに身体を預けながらの方が文章や物語に没頭できる。
ふと顔を上げた時に目に入る車窓の風景もまたよし。
読書とは身体感覚と連動した遊びである。

今年も春の青春18きっぷの季節を迎え、本を携えて旅に出た。

旅のお供は津村記久子さんの新刊『水車小屋のネネ』。とっておきの一冊だ。
目的地は、岡山県瀬戸内市の牛窓地区。
日本のエーゲ海などとも言われる、瀬戸内海に面したあたたかく穏やかな地域である。

読み鉄、出発進行!

4月初旬。
まずは山陽本線に乗車、西を目指しながら読み鉄スタート。
物語の冒頭も、理佐と律の姉妹が列車に乗って山間の地に向かうところから始まる。

誰かに親切にしなきゃ、
人生は長く退屈なものですよ

18歳と8歳の姉妹がたどり着いた町で出会った、しゃべる鳥〈ネネ〉。
ネネに見守られ、変転してゆくいくつもの人生――
助け合い支え合う人々の
40年を描く長編小説

『水車小屋のネネ』あらすじ:毎日出版社

山あいの地で繰り広げられる優しさに溢れた物語を読みながら、車窓から見える景色も緑豊かな山間部に変化してゆく。
しゃべる鳥のネネが愛おしい。
そして不意に現れる車窓の向こうの満開の桜にも、たまに目を向けてみる。
物語と景色がなんとなくリンクすることも、読み鉄の醍醐味なのだ。

あっという間に播州赤穂に到着。かわいい黄色の赤穂線に乗り換え、邑久駅で牛窓行きのバスに乗り込む。長閑な田舎道を走ること約30分、牛窓港に到着した。

穏やかな瀬戸内海

当初は瀬戸内海を一望できるオリーブ園に行く予定をしていたが、牛窓港の周辺の街並みの風情に心惹かれるものがあり、街歩きに予定を変更。

ふらふらと歩いていると、牛窓テレモークという、海辺の診療所を改装したパブリックスペースを発見。

外観の「そのまま感」が好き。
中はおしゃれな花屋さんやカフェが営業中
シフォンケーキをいただきながら、海を眺めて読書のつづき。最高か。

地域に現存するものを、人や文化が集まる場所として地元の人や外から入ってきた人が息を吹き込む。
旅人の私もまた、こんな居心地のいい止まり木で休息できてラッキーである。

赤穂線の読み鉄再開、坂越へ

さて、ぐだぐだと道草を食いながら再び赤穂線へ乗車。
目的である牛窓へは行けたので、あとは本を読みながら帰るだけだ。
だけどせっかくの18きっぷ、途中下車しない手はない。

赤穂線のどこで降りるか。
ネネが面白くて読み進める手が止まらず、車内でうじうじしているうちに兵庫県に突入してしまったあたりで、えいや!と坂越駅で飛び降りた。

駅から20分程度歩いてみると、素敵な街並みが現れた。うん、これは大正解。確信。

内陸から海へ続く坂越大道
石畳の坂道に古い家屋やカフェなどが連なる
地名通り海へ続く坂を越えると湖のように静かな坂越湾
ここでもしばし読書をする。凪。
歴史ある大避神社を参拝。船があった。
海を守る無骨な感じがかっこいい。
大避神社から見下ろす坂越湾と生島。
桜色と海の青と島の緑が美しい。

日没の少し前に坂越を後にし、帰路に着く。
18きっぷにしては途中下車少な目の旅だったが、今回も素敵な街に出会えて大満足。

『水車小屋のネネ』も順調に読み進めたが、この物語の世界は居心地が良すぎて、ページが減っていくことが名残惜しくなった。

私はこれから何度もこの物語を読むのだろうが、きっとその度に牛窓や坂越の街の風景を思い出すだろう。
いつか物語の舞台である中山道でも読んでみたいものである。

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