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まっすぐじゃなくてすみません(熟成発酵エッセイ)

noteの下書きには、書き始めたものの収拾がつかなくなって放置している文章が結構あるのだが、ちょうど1年前に書いた文章が出てきた。

毎年11月後半に差し掛かった頃から年末にかけてメンタルを含む体調が底を迎えるのだが、昨年も例に漏れることなく、きっちりと私は落ち込んでいた。

小さなことにクヨクヨしている状況を書き連ねており、一周回って清々しいほど根暗な文章であるが、まさかの展開で過去の自分にしてやられたので、日の目を浴びせてみようと思う。

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今月に入ってから、「自分はまっすぐだと思ってるのにまっすぐじゃない」という出来事が続いた。

主に顔のことである。

先週末、免許証の更新に行った。

例の写真撮影時、流れ作業よろしく誘導に従って椅子に座ってじっとカメラを見ると、
「はい、もうちょっとまっすぐしてくださいねー!」と、撮影係のおばちゃんに声を掛けられ、「あ、はい」と口の中だけで言いながら自分なりのまっすぐに整えたつもりでいると、「はい!まっすぐ!」と今度はやや怒られた。

そして、まっすぐ…まっすぐって…と、不自然に目が泳ぎに泳いだ中で撮影は終わった。

講習が終わって帰り際にもらった免許証を見ると、その狼狽が綺麗に写真に現れており、想像を絶する残念な出来栄えであった。
(というか写真撮影があることを忘れており、30代の女としてというか、もはや人間としてのコンディションが終わっていた。)

ふと顔を上げると目に入った、壁に貼られた指名手配犯の写真の方が私よりずっと写真映りがよくて羨ましくなったほどだ。

免許証の写真なんてだいたいそんなもんやろ。
と宥めつつも、向こう5年、これで自分を証明することを思うとなんだか悲しくなった。


そんなこともあり、もう少し人生をマシにすべく、よし、パーマでもあててみよう!と、出張先の名古屋の美容院を予約したのだった。

やけにフェミニンな男性の美容師さんに「髪質的にパーマは無理」とバッサリ宣告され、パーマはあてられなかった。

仕方なくカットだけをしてもらったが、その時も何度も何度も(10回を超えたあたりで数えるのをやめた)「はい、まっすぐ向いてね」と、頭頂部を掴まれ頭の角度を「まっすぐ」に矯正されたのだった。

きっと私の身体は骨盤あたりから歪んでいて、それが顔にも繋がっているんだろう。
いや、骨盤どころか、魂の核から歪んでいるのでは。

たまらず「すみません、まっすぐじゃなくて…」とほとんど泣きそうになりながら小さい声で絞り出したが、なんだか生き方そのものを弁解してる気持ちになってやっぱり悲しかったのだった。

「変わりたい」と思って行った美容院だったが、結局今ひとつ変化がない上に、またまっすぐになれなかったことへの深みに嵌っていく始末だった。

そんな私の心を救ってくれたのは、思いがけない存在だった。

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この下書きは、なんとここで終わっていた。

ふむふむ、こんなこともあったな〜と読んでいた1年後の私は「どぇぇぇえええ!?」と、ずっこけた。

力尽きたのか、ダメエピソードが冗長すぎると判断したのか、とにかく結末を書くことを放棄していた。

そして大変困ったことに、どんな思いがけない存在が私の心を救ったのか、一向に思い出せないのである。

一本のエッセイにまとめようと思うくらいなので、おそらくは大筋のテーマとなっている何らかのベクトルや方向性にまつわる物事だかエピソードだかに触れ、それを自分なりに解釈して表現しようと思ったと推測する。

だけど、今となっては本当に何も思い出せない。
思いがけず喉の奥に魚の骨が出現した気分である。

離島のぐにゃぐにゃの路地、岡本太郎の難解な作品、リアス式海岸など思いつく限りのまっすぐでないものを思い浮かべてみた。
もしかしたら意外と「人生遠回り、回り道でいいんだよ⭐︎」みたいな、量産型J-POPの歌詞だったりしてと思ってみたりもした。
しかし、どれも違うようだ。

いつものくせで「まっすぐじゃない 励まし 比喩」などとググってしまいそうにもなるが、残念ながらこの文章の結末は、世界のどこを探したって、1年前の私の内側にしか転がってない。

記憶なんてものは、かくも脆いものである。
だからこそ自分が感じて、自分が救われて、自分の中で生じたものを表現するために、残すために、私は文章を書いているんだろう。

とはいえ、とにもかくにも何かに救われ、不完全燃焼の文章だけを残し、1年前の私は生き延びた。
今年もまた、同じように不調の中にいつつも、なんとか生きている。

喉に魚の骨を残したまま、明日からも生きて、まっすぐに、素直になれない自分を救える新たな言葉や物事に出会おうと思う。
そしてまた、書こう。

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