しかし、紛れもなくそれは恋だった。

どうも。

今回は猛烈な活字中毒の僕による愛読書の一つ、『恋する寄生虫』(三秋 縋)についてお話したいと思います。

感想

まぁ読破して結構な時間がたっているわけですが、なんというか【感情】がもろに出てしまうような。とにかくエモかったんです。

かなりのネタバレを含むので、本作を読んでからこのnoteを見ることをおすすめしておきます。そう言っておかないとおきもちという暴力が飛んでくるかもしれないので、怖いね。インターネットは。

主人公の高坂は27歳の無職、重度の潔癖症を患っていて、外出はマスクをつけ、使い捨ての医療用の手袋をはめながら最低限に日用品を買い込む程度。帰宅すればシャワーを数時間浴び、消毒液を浴びるようにまき散らす。

趣味といえば、前職で培ったプログラムの技術を用いてコンピューターウイルスを作る程度。彼は、ある日ひそかにクリスマスの夜にスマホの通信機能を使い物にならなくするウイルスを作っていた。

そんなサイバー犯罪者が恋愛なんかできるわけないのに、一人の寄生虫が好きな女子高生とうちとけ、お互いを想い合い、愛し合っていく過程がたまらなく愛おしく感じました。本読みながらニヤけてました。

さて、その相手の女子高生。佐柳という不登校の女の子。今どきの学生にはかなり珍しい、金髪、タバコ、大きいヘッドホンという出で立ち。そんな佐柳も、高坂と同じように人と接することが難しい、もっといえば人間社会に生きていくには難しいような疾患のようなものを持っていました。

視線恐怖症。佐柳は人と目を合わせるのが怖いのだった。それだけではない、外を歩いているだけでも道行く人々が 全員に見られているような気がしてどうしようもなく不快になるのだという。

人間社会で生きていくことがかなり困難なこの二人が惹かれあっている原因は、タイトルにもある【寄生虫】の存在でした。

フタゴムシと呼ばれる寄生虫

フタゴムシという寄生虫をご存じだろうか。

この虫は目黒寄生虫博物館にも展示されているので、暇があれば見に行ってみるいいかもしれません。まぁ、今我々が外出をするには高坂のような風貌をしなければならないのですが。

さて、このフタゴムシ。寄生虫の中でもとりわけ不思議な特性をもっている。

終生交尾という単語を見て、察してほしい。

終生交尾とは、幼虫の時に出会った番と一生を共にするというもの。もっとも、フタゴムシは相手がいないと成長ができないのだが。

ここからは本作でも出てきた表現を多用することを許してほしい。

フタゴムシは雄の生殖器官と雌の生殖器官の両方を持っている雄雌同体という生物で、本来ならば一人でも生殖をすることが可能な生命。

しかし、フタゴムシはそれをしない。一人でできることをあえて一人でしている。高坂も言っていたが、なんて贅沢なやつらなのだろう。

この虫は生まれて最初に出会った番と一生を過ごす。一目惚れのような出会いをして。死ぬまで、相手を決して見捨てることなく。お互いが離れるとき、それはすなわち死を意味しているのだ。

ゆえに、終生交尾。

ちなみに、フタゴムシが番と出会い、お互いの生殖器官を結合させた姿は、一匹の蝶のように見えるという。ここまで、二つで一つな関係性。憎たらしいほどに。

ちなみにのちなみにで、このフタゴムシ。目黒寄生虫博物館のマスコットにもなっていて、おみやげコーナーでも恋の縁結びとしてそのストラップが売られているので、もし訪れた際はチェックしてみるといいでしょうね。


話をもとに戻しましょう。

二人にも、やはり寄生虫が宿っていました。

この虫は、宿主を人間社会に適合できなくなるような疾患を与える。

同じような悩みを抱えた宿主同士は虫によって惹かれあい、最終的には心中をしてしまうというのだ。

虫を研究する人物が言うには、寄生虫を体から排出する駆虫剤を摂取すれば、助かるらしいのだが。

虫がいなくなると共に、二人を思う恋心もまるでなくなってしまう。

高坂と佐柳は、果たしてどうなのだろうか。

虫によってもたらされていた一時の幻想に過ぎなかったのだろうか。

きになる結末は読んでもお楽しみということで。ここはひとつ!

おわりに

ストーリーもさることながら、この三秋縋という作家は、情景描写が一つの絵画をみるように美麗なもので、季節の移り変わりだとか、登場人物が肌に感じている気温や体温の一つ一つまでもが呼んでいる我々にもわかるような書き方をしているのも、この本の魅力の数あるうちの一つなのではなかろうか。

物語が盛り上がっていくとともに、こちらの心拍数や呼吸を激しくなっているのを感じる。最後まで目の離せない二人、高坂と佐柳の結末をぜひ読んでみてはいかがでしょうか。

僕の終生交尾の相手はどこにいるのでしょうかね。

それでは、また今度。

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