きたせ

創作「サクラバ・ユウ・ショー」など

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眼玉が欲しい

   激しい頭痛で目が覚めた。  棺桶の蓋を押し開けて、起き上がったものの、立ち眩みがして壁に手をついた。壁には翅に目玉の模様のある蛾が貼りついていて息をひそめていた。窓辺へ寄って、蜘蛛の巣に触れないよう頭を低くしながら窓を開け、外の空気を吸った。静かな郊外の美しい夜だ。夜は私の時間だ。  蜘蛛の巣の主にそっとキスをして、おはようと言ったが、おくびょうな主は何も言わずに距離を取った。部屋の真ん中に戻り、瓶を傾けて水を飲んだ。それから靴をはいて部屋を出た。暗く狭い廊下をふ

    • 愛しのダンナサマー【後編】

       12 光る爪「全壊(パーフェクト)だ」  という感嘆の声が耳から耳へと抜けていく間も、ビビは教師の背中を追うことに努めていた。  教師は音を立てずに歩くから、ビビだけが靴の音を硬質な廊下に響かせていた。 「学校の長い歴史の中で、校舎を完璧に壊してくれたものはきみで七人目だ。再度いわせてもらう、パーフェクトだ」  ……という言葉を実はビビは聞いていなかった。  教師の尻尾の麗しいハート形の鉤がかすかに揺れていて気が散るし、歩みに合わせて臀部と腿の間に皺が左右交互にできるのが

      • 愛しのダンナサマー【前編】

        創作 『愛しのダンナサマー』 ▼ 爆弾使いの姪っこちゃん悪魔が、おじさま(=ダンナ様)のもとに押しかけ女房しちゃうぞ! ▼ ジャンル:爆風ロマンス ▼ いっしょに夏へと出かけませんか? 連れて行って、おまえだけ置いていきます。 ▼ この作品には、夏100個ぶんのサマーが含まれています。 ▼ この小説を読んでフフッと笑えるひとは、とてもやさしくて、頭がちょっとヘンです。 ――――――――――――――――――――――――――   愛しのダンナサマー [プロローグと

        • サクラバ・ユウ・ショー 第6話

          第6話  早朝、碧咲を乗せた大型客船が流星島の港に到着した。  船内から次々と吐き出されていく人たちに紛れ込み、何か月ぶりかの地面を足で踏みしめた。揺らがぬ固い大地を踏んでいると、つい飛び跳ねたくなったし実際跳んだ。船での長い潜伏と、ここまで逃げおおせたことにほっと一安心。長い金髪を揺らし、蕾の尻尾も揺れている。  船内でもらった幾つかの胃散薬や酔い止めはあるものの、食糧はなかった。それどころかお金もない。  ヒッチハイクを試みたが早々に成功、大型トラックに乗せてもらった。

        眼玉が欲しい

          サクラバ・ユウ・ショー 第5話

          第5話  火が燃えている。  やにわに興奮して周りが見えなくなるように、まさにそのように火が燃えている。  うみべで、夕暮れのサーファーズパラダイスで、観光客でごった返すビーチで、炎に包まれた足で砂浜を踏み焼きながら、あるいは憎き竜人の喉笛めがけて槍の切っ先を向け、平和な世界にひびを入れる炎の悪魔と化していても、それは真夏の蜃気楼にすぎない。  実際のところ、ウニベルシオはいま、よどんだ大気の下の荒野に立っている。昨日もそうだったし、明日もそうだろう。おそろしげな黒い獣と化

          サクラバ・ユウ・ショー 第5話

          サクラバ・ユウ・ショー 第4話

          第4話  地下の監房から出してもらえたジノだったが、小さな店員ルカに連れ出された先は一階のサロンではなかった。  黒表紙に金文字の魔法書が散らばった彼女の秘密の隠れ処に案内された。錬金術とやらに付き合ってほしいらしい。竜角の粉と竜人の唾液がほしいのだという。  悪態をつくと顔を近づけてきたので、見返してやろうとルカの瞳を覗いた。そのときから前後不覚に陥り記憶を失った。  んでもって。 「ドウシヨウ……失敗シちゃった……」  一時間後、ジノはカップケーキになっていた。 「元

          サクラバ・ユウ・ショー 第4話

          サクラバ・ユウ・ショー 第3話

          第3話  サクラバ・ユウがいたからこそ今生の世に別れを告げずにいられた者も少なくない。  この頬の痩せこけた髭おとこもユウと会っていなければ今ごろ自宅でだれにも発見されず硬くなっていたかもしれなかった。孤独を求めて夜のひと気少ない街路を彷徨っていた彼を昼の世界に引きずり出したのは幼なじみの肥ったおとこだった。 「魂を癒してくれるのは海でも公園でもない。甘いものを食べて気力を付けようじゃないか。いや、なによりあそこには、あの子がいる。因果なことに、きみとも友達のはずだよ。ホッ

          サクラバ・ユウ・ショー 第3話

          サクラバ・ユウ・ショー 第2話

          第2話 「アシッドサラダ」といえばサタニカライズでも放送中のクレイアニメの人気作で、毎回物語のおしまいにスタッフのリアルな足がオブジェを踏みつけて台無しにしてしまうのがお決まりの結末となっている。  粘土で作られた家々、並木道、車、幸福な恋人、愉快なモンスターたち。命を吹き込まれたオブジェの織り成す世界や物語を生々しい足がめちゃくちゃにしていく。ひゅー、という効果音。ドシン。破壊神の使者と化した足が世界を廃墟に変える。だれかの小指が舞い上がり学生鞄の中身が飛び出て春キャ

          サクラバ・ユウ・ショー 第2話

          サクラバ・ユウ・ショー 第1話

          カタカタとツマミを回すチャンネルの 12の後はUが来る 1の前にもUがある サクラバ・ユウ・ショー 真夜中の 今日と明日をつなぐ星 u your best thing, ”U". you are! おねがい 『サクラバ・ユウ・ショー』を見るときは 部屋を暗くして ソファで2リットルアイスを抱えながら だらけた姿勢で見てね! 第1話  ここは52階、サタニカライズ制作局。 「もうだめだあ」  絶望の声が聞こえてくる。これはだれ、だれ、だれの声だろう。どこから聞こえてくる

          サクラバ・ユウ・ショー 第1話

          第一章 三日月に便座カバーを

          第一章「三日月に便座カバーを」 これは不要物(ハート)と呼ばれる男の、戦いの記憶と魂の遍歴である…… 「電気米が恋しければ、すでに君の分別は、藻屑にしておが屑だ。凡そ食詰め物は地上の空中分解、ないしは、ゴミ虫添乗員共の終末大バーゲンと変貌する運命だよ。故に、君は一度だけでなく何度でも――現在、過去、未来、中森、明菜に関係なく――近代的標準銃の二乗頭でポロロッカ、イエから見棄てられ、ムラから切り離され、永遠のゴムダンスの受け皿となることを味わうだろう」 「うんこがもれ

          第一章 三日月に便座カバーを