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北海道一小さな村が人口の半数以上のスポーツ合宿を受け入れられる理由【北海道音威子府村②】

北海道で一番小さな村、音威子府。

人口は800人。北海道一過疎化が進むこの村がスポーツによって地域活性化を果たしている。宿泊施設のキャパシティーもないなか、一度に500人以上のスポーツ合宿の受け入れを可能にしているのだ。

今回も、僕の出身地でもある音威子府村の取り組みをご紹介したい。

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厳しい冬だからこそのスポーツ

音威子府村は、村の8割が森林という大自然に囲まれた緑豊かなまち。

基幹産業は農業で、主にそばの生産をしています。「音威子府そば」は知る人ぞ知るそば通のブランドです。
また、砂澤ビッキというアーティストが拠点にしていたこともあり、ものづくりが根づいたまちでもあります。美術工芸が学べる魅力的な高校もあります。

音威子府村は、北海道北部に位置し、冬は超豪雪・超極寒。
年間の平均気温は6℃以下であり、僕はマイナス35℃まで体験したことがあります。

そんな冬に盛んに行われるスポーツが、
「クロスカントリースキー(クロカン)」

毎年、全日本選手権と大学生の全国大会を開催しており、第一線で戦っている選手なら必ず来ることになるまちです。

国内屈指の難コース、経験豊富な大会運営、コース整備の技術力、そして地方らしい温かい受け入れ体制で、選手のファンも多くなっています。

深刻な過疎化と観光の課題

音威子府村は、最盛期4000人の人口がいましたが、徐々に人口が減少し、現在は800人ほどになっています。

子育て世代を中心に都市部への転出していっている状況で、子どもの数が激減しています。15年前は学年20人はいましたが、現在は1人しかいない学年もあります。

超過疎状態のなか、地域向けのビジネスは成り立たなくなってきています。

観光資源としては「音威子府そば」や「鉄道」、「温泉」などがありますが、
夏場こそ一部の根強いファンが訪れているものの、冬期は吹雪で前が見えなくなるほどの豪雪にみまわれることが多いので、観光の足が完全に止まってしまいます。

そんななか、クロカン大会の開催は、村の経済活動に大きな影響をもたらしています。

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村に根付くクロカンの文化

クロカンは、厳しい冬の音威子府に適したスポーツです。

知らない方のために説明すると、
スキーとストックを駆使して、アップダウンのあるコースで競う、いわば冬のマラソンです。

僕が小さい頃は、小中学校でのクラブ活動に必ず入らないといけなかったため、
夏は野球か卓球、冬はクロカンかアルペンを必ず取り組むこととなっていました。

運動が得意なコの野球の体力づくりとして、クロカンをやっているケースが多かったですね。

村のほとんどの子どもたちがクロカンに取り組むなか、徐々に頭角を現す選手たちが現れました。ソチ、平昌オリンピックに出場した吉田圭伸選手もその一人です。

吉田選手は中学2年のときに、村として初となる全国大会初出場。翌年には全国優勝を果たします。
強豪校の誘いを断り村の高校に進学すると、2004年にリレーを含む全国三冠を達成。学校対抗でも優勝しました。

小さな村で注目される話題も少ないなか、
子どもたちの挑戦と努力が村に大きなニュースをもたらしました。

その背景には、村からの用具などの支援、住民の熱烈な応援、そしてクロカン文化を根付かせてきた環境があり、長い時間をかけて実を結んだのです。

音威子府で全日本規模の大会を初めて開いたのは1983年のことでした。現在では37回目を迎えています。

クロカンは、コース利用や大会観戦は基本的にどこも無料であり、コースを整備する特殊な圧雪車や人件費を考えると、ものすごくコストのかかるスポーツです。

しかし大会を誘致することで、たくさんの選手たちが滞在してくれることになります。全国規模になると、数日ではなく、1週間〜2週間のスポーツ合宿を受け入れることができます。

音威子府で開催する全日本大会には、500人以上の選手が出場しますが、村の人口は800人。宿泊施設もそれほどありません。
では、どのようにこれほどの選手の滞在を実現しているのでしょうか。

常識を覆した大会運営

大規模の大会開催には多くの人員が必要ですが、コース整備や関門員、軽食の炊き出しなど、ほとんどの人が役場職員や地域のお母さん方といったボランティアで運営しています。

選手の滞在については、宿泊施設はもちろんですが、村営住宅の空き部屋、老人福祉施設や冬休み中の高校寮、協力してくれる個人住宅まで活用し、500人の滞在を可能にしています。

まさに、村まるごとの大会運営です。

食事やお風呂の提供は、時間を決めて宿泊施設に行って済ませます。公共施設や民家まで使うローカルな大会運営が、温かさを感じさせているのです。

宿泊費を含めて一人あたりの消費を8000円とすると、500人が10日間滞在すれば4千万円の経済効果になります。

経済効果だけでなく、まちの子どもが夢を持ち、夢を叶え、毎年来てくれる選手たちのファン化(関係人口)、地域の結束など、さまざまな好影響をもらたしています。

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このような運営が可能となる「地域力」

大会開催のために自宅に選手を泊める、休日に氷点下のなか丸一日大会をボランティアで手伝う。そんな協力をしてくれる地域はなかなかありません。

多くの子どもがクロカンを楽しみ、文化が定着したこと。

子どもたちが夢を叶え、地域に活気が生まれたこと。

そして、小さい村だからこその密接な関係。

不可能を可能にしたのは、この地域力にあると僕は思います。

だから僕はこの村が好きです。


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