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【連載】独裁者の統治する海辺の町にて

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過疎の漁師町がある政治結社組織に統治された。否応なく組織に組み込まれた中橋康雄は少女凛子と組んで親友の神学者登坂士郎を殺害する。組織の統治支配の恐怖のなかで康雄と凛子はどうなるの…
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2023年5月の記事一覧

独裁者の統治する海辺の町にて(15)

独裁者の統治する海辺の町にて(15)

安倉雅子が腹違いの弟と言っていた記者は永川謙二という名前だった。この二人が本当にそうだったかどうかはおれは知らない。だが、二人が男と女の関係にあったことはまちがいない。

安倉は凛子がそうであるように、子供の時から組織にアサシンとして育成されていた。違いは、捨て子か、施設から連れてこられたかだ。永川謙二も同じ施設にいたにちがいない。安倉の数回の東京出張は、原発関係の政府要人と電力会社に対する裏工作

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独裁者の統治する海辺の町にて(14)

独裁者の統治する海辺の町にて(14)

安倉雅子は時間通りにやってきた。スチールドアの開く音がすると同時におれは照明のスイッチを入れた。彼女は一瞬身構えたが、椅子に座るように促すと、それに従った。紺の上着にタイトスカートだった。この格好だとナイフは一本ではないはずだ。デスクの縦の長さは2メートル。彼女の攻撃を防ぐのにどれだけ有効かは分からないが、「先生の武器はナイフで、銃は使わない。そして投げナイフはあてにならないからやらない」と凛子は

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