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【R18官能ホラー小説】きみが還る夏


「ただいま帰りました。わたしです」

 玄関でか細い声がした。壁に掛かっているカレンダーを見る。そうだ。去年と、その前の夏も全く同じ日だった。

 夏が逝く頃。暑かった夏が終わろうとしている。

 なぜ驚くのだろう。忘れた振りをしているだけということは自分でもわかっているはずなのに。

 来客用のチャイムが鳴る音も、鍵の掛かったドアが開く音もしなかった。でも確かにきみの声だった。愛しいきみの…優しい声。

 震える膝を押さえて玄関に行ったら、花柄のサマードレスを着たきみが立っていた。ずっと変わらない、若く美しいきみの顔が、私を見て優しく微笑む。

「ただいま」

 さっきより明るい声で繰り返し、きみが艶やかに笑った。

 …何処かで蝉が鳴いている。

 私は掠れた声でお帰りと言った。去年と全く同じだった。

「少し痩せたんじゃないですか。ちゃんと食べてないでしょう。何か作りますから待ってて下さいね」

 白いサンダルを脱いで上がりながらきみが言う。ノロノロとリビングに戻り、キッチンで食事の支度をしているきみをぼんやり眺める。

「何を見ているの」

 チラッと私を見たきみが言った。

「いや…その…きみは変わらないなと思って」
「そうかしら」
「…どうしてきみは」
「なに?」
「どうしてきみはかえって来るの?」

 包丁を持つ手を止め、きみが私の顔を見つめた。

 …何処かで蝉が鳴いている。うるさいほどの鳴き声に思わず両手で耳を塞ぐ。

「どうしてって、わたしはあなたの妻じゃないですか」
「…ああ」
「あの日あなたはわたしを何処にもやらないと言った。わたしを愛しているから何処にも誰にも渡さないと。そうでしょ」
「ああ、そうだね」
「きみは僕だけのものだって。わたしは嬉しかった。でも、もう遅かった。でもそれは、わたしの過ちのせいです」
「済まない。謝って済むものじゃないが。ああ、私は取り返しのつかないことをしてしまった」
「謝らないで、あなた。さあお食事が出来たわ」

 テーブルにきみが作った料理が並ぶ。私の好きなものばかりだった。

 わたしはいいからと、きみは箸を付けなかった。私の向かい側の椅子に座り、頬杖をつきながら、食事をする私を楽しそうに見る。

「何を見てるんだい」
「だって一年ぶりだもの」
「そうだね。でも…」
「何よ」

 …蝉が鳴いている。私の中からうるさいほどの鳴き声がする。

 …あの日と同じように。

「ずっとここにいればいい。僕と一緒にずっと…」
「それはできないの」
「どうして?」
「どうしてって言われても、わたしにもわからない。でもこうやって会えるから…」

 微笑みながら首を傾げるきみのサマードレスから覗く白い肌。その艶かしく光る白さに、私の欲望が燃え上がる。

 私は椅子から立ち上がった。

 折れてしまいそうに細い腰を抱き寄せ、真っ赤なルージュを引いた唇を奪う。甘い香りのする髪が揺れて、きみの唇から切なげなため息がこぼれた。

 蝉が鳴いている。うるさくてきみの声が聞こえない。

 …あの日のように。

 …きみを森の奥に埋めたあの日のように。


 きみは私の知らないうちに男を作った。

 どうしてと問い詰めた私に、寂しかったからときみは泣きながら言った。私の仕事が忙しく、一緒にいられる時間が少なくて寂しさに耐え切れなかったからと。

 きみが見知らぬ男に抱かれている光景が浮かんだ。嫉妬に焼かれた私は、きみの長い髪を掴んで揺さぶり、叫んだ。

「その男に抱かれてどうだった」
「ううっ、ごめんなさい」
「どうなんだ!言ってみろ。気持ち良かったのか!」
「許してください」

 無抵抗のきみをベッドルームまで引きずって行った。

 ごめんなさいと泣きじゃくるきみを乱暴にベッドの上に投げて、サマードレスの襟に手を掛けて乱暴に引っ張ったら、ビリっという布が裂ける音がした。

「ああっ」
「この淫売め」
「もう二度としません、だから…ううっ」
「だから何だ」

 引き裂くように脱がせ、下着もすべて剥ぎ取り、丸裸にした。

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