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Random Walk

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2024年1月の記事一覧

【ショートショート】立てこもり

【ショートショート】立てこもり

 学校の保健室に男が立てこもってから既に12時間以上が経過していた。担当の鈴木刑事は苛ついた様子で鋼鉄製のシャッターで閉ざされた保健室を見つめている。
「一体どうなってるんだあの保健室。機動隊が突入を試みてもまったく歯が立たないぞ」
 鈴木刑事の言葉に、彼の部下の松本刑事が答える。
「校長に聞いてみましたらアメリカ製でむちゃくちゃ頑丈に出来ているみたいで、生徒の安全のために奮発して設置したらしいで

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【ショートショート】遠隔管理

【ショートショート】遠隔管理

「課長、おはようございます」
出勤してまず最初に課長の席に向けて挨拶すると、ぶうん、とプロペラの音を立てて小型ドローンが舞い上がった。ドローンのカメラに向けて軽く頭を下げる。
『おはよう、田中くん。今日もよろしく』
スピーカーからの返答を受けとり、俺は自席について仕事に取り掛かった。

昼休みの喫煙所でいつものように同僚の山田とタバコを吸いながらの雑談。
「いくら便利だからってまさかドローンで遠隔

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【ショートショート】秘密の合言葉

【ショートショート】秘密の合言葉

 会員制の秘密のバーに連れて行ってやる、と先輩が僕に告げたのは大口の商談がようやくまとまった打ち合わせの帰り道だった。
「どうせ今日は直帰だろ? せっかくだし飲みに行こうぜ」
「いいですね、なんて店なんですか」
「『粉雪』っていうんだよ。洒落てるだろ? でもなぜか人気がないんだよな」
 先輩に連れられた先は雑居ビルの地下だった。暗がりの奥に瀟洒なデザインのドアが鎮座している。先輩が前に立つと、ドア

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【ショートショート】輝け、願い

【ショートショート】輝け、願い

 暗くなりかけた冬の道を、幼馴染のトモヤと二人で近所の神社に初詣に向かう。もう中学生だから恥ずかしさもあるのだけど、昔からの習慣だからと今年もトモヤは誘いに来てくれた。照れ隠しにぶっきらぼうな返事をしながら、実はあらかじめ決めてあった一番お気に入りの冬服を着て出かける。
 いつものようにお参りを済ませた後、おみくじを引こうとしたところでトモヤが言う。
「へえ、夜光おみくじだって。なになに、願いの強

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