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【ショートショート】遠隔管理

「課長、おはようございます」
出勤してまず最初に課長の席に向けて挨拶すると、ぶうん、とプロペラの音を立てて小型ドローンが舞い上がった。ドローンのカメラに向けて軽く頭を下げる。
『おはよう、田中くん。今日もよろしく』
スピーカーからの返答を受けとり、俺は自席について仕事に取り掛かった。

昼休みの喫煙所でいつものように同僚の山田とタバコを吸いながらの雑談。
「いくら便利だからってまさかドローンで遠隔管理されるとはなあ。時代も変わったもんだよ」
課長は普段は海外の拠点にいる。ドローンをはじめとするロボティクス製品を取り扱うこの会社は外資系であるため、オフィスが世界中に散らばっているのだ。
ふと山田を見ると妙に深刻そうな顔をしている。
「……。なあ、課長って本当にいるのかな」
「はあ? 何だよ急に変なこと言い出して」
「だって俺まだ課長とリアルにあったことないし、周りに聞いても誰も直接会ったことないって言うんだよ」
いやいや、まさかと言おうとした口をつぐむ。俺だって課長と直接顔をあわせたことはないのだ。

ぶうん、とプロペラの音が聞こえた。


お題「ドローンの課長」


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