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【ショートショート】秘密の合言葉

 会員制の秘密のバーに連れて行ってやる、と先輩が僕に告げたのは大口の商談がようやくまとまった打ち合わせの帰り道だった。
「どうせ今日は直帰だろ? せっかくだし飲みに行こうぜ」
「いいですね、なんて店なんですか」
「『粉雪』っていうんだよ。洒落てるだろ? でもなぜか人気がないんだよな」
 先輩に連れられた先は雑居ビルの地下だった。暗がりの奥に瀟洒なデザインのドアが鎮座している。先輩が前に立つと、ドア上に設置されたスピーカーから声が響いた。
「合言葉をお願いします。こちらの言葉に続けて言ってください」
落ち着いたトーンの声が聞こえたかと思いきや、急に大音量の叫びが響く。

「こなぁぁぁぁ~~~!!!」

それに負けじと先輩が声を張り上げた。

「ゆきぃぃぃぃ~~~~!!!」

先輩の声が響いたと思うと、ガチャリと音がして、ドアのロックが外れたのが分かった。
「お、開いた開いた。ん、どした。入らないのか」
「……先輩、この店が人気ないの、たぶんこの合言葉のせいだと思いますよ」


お題:「会員制の粉雪」


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