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Random Walk

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執筆したショートストーリーをまとめています。
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2023年11月の記事一覧

【ショートショート】棒

【ショートショート】棒

「う~ん」
棒である。
「うう~~~~~~ん」
紛うことなき、棒である。
コンサルタントの西尾は悩んでいた。
「あのー、どうだべか。なんぞ良いアイデアでもありませんかのぅ」
呻き続ける西尾を不安そうに老人が見つめている。この老人が西尾の依頼主だった。
「いま必死に考えてます。ええと、もう一度確認しますが、この棒、あ、いや、このゴボウが村の唯一の名産なんですよね?」
「んだ」
西尾の質問に老人が頷く

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小牧幸助文学賞参加作品

小牧幸助文学賞参加作品

「再会」
湖の底で待つ彼女に今夜ついに会いに行く。

「季節」
行く春は追わず、冬をひそかに抱きしめる。

「悲しみは尽きず」
零れ落ちる涙はただ滝となって海を広げた。

「踏みしめる」
旅路は果てしなく、靴跡だけを刻んでゆく。

「愛の夜」
月影に隠れて、君と秘密の口づけをかわす。

「心残り」
僕が死んだ後も君は愛してくれるだろうか。

「刻まれたもの」
戦友は笑い乍ら死んでいく。その悲しい瞳

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【ショートショート】筋肉数え歌

【ショートショート】筋肉数え歌

ふっ、ふっ、とリズミカルに息を吐き出す音が室内に響く。声の主は一人の男性。パンツ1枚の姿で全身にじんわりと汗を滲ませている。男性の筋肉は見事なまでに鍛えられており、美しい曲線を描き出している。男性の前には目出し帽を被ったまま椅子に縛られているもう一人の男がいた。
筋肉を剥き出しにした男性が数え歌を口ずさむ。
「ひとつ、筋肉1キロ、消費カロリー13キロ」
ピクッ。
「ふたつ、筋肉2種類、速筋、遅筋」

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【ショートショート】ワガママ殿

【ショートショート】ワガママ殿

「いやじゃ、もう歩きとうない」
立派な身なりをしたお殿様が、服が汚れるのも構わず道端に座り込んでいる。
(また始まった……)
家来一同が一斉に溜息をつく。
このお殿様がとつぜんワガママを言い出すのはいつものことではあるが、だからと言って慣れるわけでもない。
「しかし殿、カゴに乗りたくない、自分で歩くと仰ったのは殿ではございませんか」
そう言いながら家来が宥める。
「カゴは周りが見えないから嫌なのじ

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【ショートショート】親切な暗殺

【ショートショート】親切な暗殺

ーはい、本日は最近話題の暗殺者、キラートマトさんにお越しいただきました!
ーよろしくお願いします。
ーお願いします。早速ですがキラートマトさんは暗殺者業界に新風を吹き込んでいると話題です。ご説明頂いてもよろしいでしょうか。
ーはい。私が掲げているのが「親切な暗殺」です。
ーと、言いますと?
ーこれまでの暗殺は、殺したらそれで終わりでした。しかしそれはあまりに無責任ではないかと思ったわけです。そこで

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