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【ショートショート】筋肉数え歌

ふっ、ふっ、とリズミカルに息を吐き出す音が室内に響く。声の主は一人の男性。パンツ1枚の姿で全身にじんわりと汗を滲ませている。男性の筋肉は見事なまでに鍛えられており、美しい曲線を描き出している。男性の前には目出し帽を被ったまま椅子に縛られているもう一人の男がいた。
筋肉を剥き出しにした男性が数え歌を口ずさむ。
「ひとつ、筋肉1キロ、消費カロリー13キロ」
ピクッ。
「ふたつ、筋肉2種類、速筋、遅筋」
ピクッ。
「みっつ、筋肉分類、平滑、心筋、骨格筋」
ピクッ。
「……自慢したいのはよく分かったからさ。数えるたびに胸の筋肉ピクピクさせるのやめてもらえるかな」
縛られている男が訴えるが、全く聞こえていないようだ。ひたすら自分の筋肉を披露するのに夢中である。
「なんでよりにもよってこんな奴の家に泥棒に入ろうとしたかな俺は……」
悲しそうにつぶやくが時すでに遅し。哀れな泥棒の前で淡々とポージングを決める男の表情は不気味なほどに爽やかだった。



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