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【ショートショート】棒

「う~ん」
棒である。
「うう~~~~~~ん」
紛うことなき、棒である。
コンサルタントの西尾は悩んでいた。
「あのー、どうだべか。なんぞ良いアイデアでもありませんかのぅ」
呻き続ける西尾を不安そうに老人が見つめている。この老人が西尾の依頼主だった。
「いま必死に考えてます。ええと、もう一度確認しますが、この棒、あ、いや、このゴボウが村の唯一の名産なんですよね?」
「んだ」
西尾の質問に老人が頷く。
「これを全国にアピールして村おこしをしたいという事ですが、何か特徴はあるのですか? 例えば栄養価が高いとか」
「いや、特に普通のゴボウと変わらんな」
「では味が美味しいとか」
「普通の味だべな」
なんで村おこしできると思ったんだよ、という言葉を西尾は飲み込んだ。どうにか利点を見出そうと質問を続ける。
「食感が良いとか」
「普通のものより硬くて食べにくいのぅ。隣の婆さんなんかは杖代わりにしとるぐらいじゃ」
「良いとこないじゃないですか……。ん? いや待て。もしかしたら上手く行くかも」

数か月後、西尾の目の前で飛ぶように例のゴボウが売れていく。
西尾はこのゴボウを「食べられる杖、ごはん杖」として売り出したのだ。おりしも登山がブームとなっており、遭難の際の非常食としても使える杖として売れ行きは好調だ。
「西尾さんのおかげじゃ。これはお礼ということで」
そう言って老人が差し出したのは大量のゴボウだった。
「いや、せっかくですが遠慮しときます」
インドア派の西尾は丁寧ながらもきっぱりと断ったのだった。


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