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【ショートショート】ワガママ殿

「いやじゃ、もう歩きとうない」
立派な身なりをしたお殿様が、服が汚れるのも構わず道端に座り込んでいる。
(また始まった……)
家来一同が一斉に溜息をつく。
このお殿様がとつぜんワガママを言い出すのはいつものことではあるが、だからと言って慣れるわけでもない。
「しかし殿、カゴに乗りたくない、自分で歩くと仰ったのは殿ではございませんか」
そう言いながら家来が宥める。
「カゴは周りが見えないから嫌なのじゃ。揺れも大きいし」
家来の言葉に対し、お殿様は譲る気配はない。
「ですがカゴが嫌だとなると……誰かに背負わせましょうか」
「それも不安定ではないか」
「人間は二足歩行ですからね。仕方ありませんよ」
「それなら、そこそこ知能があって調教できる、四足歩行の動物に乗ればよいのではないか?」
はたと手を叩き、名案を思い付いたようにお殿様が言う。
「殿、それは『馬』といいます」
家来は呆れたように告げたのだった。



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