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Random Walk

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2023年8月の記事一覧

【ショートショート】ご応募はこちらまで

【ショートショート】ご応募はこちらまで

 北の帝国の情勢がどうやら不穏らしい。相次ぐ政治家の不祥事に国内の不満が溜まっており、国外に脱出を図る国民が後を絶たない。
 これに目をつけたのが自由主義国だった。今なら彼の国のスパイを大量に引き抜くことが出来るかもしれない。大統領は手段は選ばなかった。ネット広告にテレビCM、SNS経由でダイレクトにコンタクト取るなど秘密警察のはずなのだが堂々と宣伝して人員を集めろと命令する。しかしいっこうに集ま

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告白水平線

告白水平線

あの水平線の向こうに彼がいるのね。彼女は毎日のように水平線の向こうを眺めて思いを馳せる。

水平線の向こうに彼女はいる。嘘じゃないさ、俺は目があったんだ。彼女も俺のことに気がついているんだ。この前なんて微笑み返してくれたんだ。

「水瓶座星系で事故があったって?」
「ああ。どっかの馬鹿が飛び込んたらしい」
「飛び込んだって、ブラックホールにか?」
「そう。なんでも『水平線の向こう側』に女がいたんだ

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【ショートショート】未来断捨離

【ショートショート】未来断捨離

 とある喫茶店で少女が二人、タブレット端末を覗き込みながらおしゃべりをしていた。端末画面には下から上に向かって無数に分岐する線が表示されている。
「じゃあ、これは?」
そう言いながら一人が線の内の一本をタップする。するともう一人の少女が大人になり、何やら事務作業をしている姿が映し出された。
「うーん、これはなんかつまんなそうだし、いらないかなー」
少女はそう言いながらその線を画面から削除した。
 

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【ショートショート】最後のマスカラ

【ショートショート】最後のマスカラ

 それはまるで、荘厳な儀式のようだった。
 老女が一人、鏡に向かって化粧をしている。その背筋は凛と伸びて、自らと対話をしているかのようにも見える。
 彼女はマスカラブラシを目元に近づける。まつげの根元に数秒当て、毛先に向かって左右に小刻みに動かす。慌てず、焦らず。まつげの一本一本を漏らさず塗りきるようにしてしっかりと仕上げる。作業が終わると、小さくまばたきをして満足そうに頷いた。
 ちょうどそのタ

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