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2023年4月の記事一覧

【掌編小説】料理の神髄

【掌編小説】料理の神髄

 「Closed」と書かれた札がぶら下がったドアが控えめにノックされる。午後三時過ぎ、ランチが終わってディナータイムまでの間の空白の時間帯。シェフの石橋がドアを開けると、そこにはどこか不安そうな顔をした壮年の男性が立っていた。
「あの、今日ここで開催される料理教室の参加者なのですが」
「こんにちは、本日ご参加の坂井様ですね。お待ちしておりました。中へどうぞ」
 石橋は営業時間の隙間を利用して、マン

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【掌編小説】百代の過客の緩慢な老化とその結末

【掌編小説】百代の過客の緩慢な老化とその結末

Q. AIも老いるのか?
A. 老いる。

 【月日は百代の過客にして、行き交ふ年もまた旅人なり。】

 「百代の過客」はネットワーク上に分散して存在しているAI(Artificial Intelligence)、つまり人工知能である。

その稼働年数は先日遂に百年を迎えることになった。彼(当然のことながらAIに性別など無いが、ここでは仮に『彼』と呼称する)の生みの親であるところの開発者もすでに彼

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