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生活する沖縄 #5|イッチバンの大人気

沖縄にはグスクっていう琉球王国時代の遺跡がたくさんあって、世界遺産になってたりなっていなかったりする。グスクは城という字を当てるけど、必ずしもお城の跡ではない。
お城みたいに立派なものばかりではないけれど12~15世紀ごろの石垣や神事用の祭壇が残っているのだから、見応えがあって大変良い。

いくつか有名なグスクがあって、その日は勝連城というところに行った。そこは実際にお城として使われていたところで、世界遺産にもなっている。


堂々たる々

てっぺんまで登るのには時間がかかった。敵を足止めするためにどんどん幅を狭くしてスムーズに登らせてくれない階段があったり、遠くの街にまで通じている抜け道があったり。
うちなる少年心に火を灯すような仕掛けが盛りだくさんで、そんな時代の上を、同じ土地に生きていた過去の上を、しっかりと歩き抜いた。

頂上は見晴らしがよく、左右を海に挟まれて、海風、丘の風を浴びて、700年前のこの城とは正反対すぎるほどにぐうたらな時間を過ごした。

ふと見下ろすと、そこには建設途中のリゾートみたいなやつがあって、それなりのプールが作られていて、植物を抜いてきれいにした後に別の植物を植え直す、みたいな奇妙な作業をしていて、本物の歴史から見るその姿はとても小さくて、ちっぽけで、情けなかった。

再開発については、文句は言うけど、保存や安全の観点で仕方ないし、儲かる施設、企業を誘致する以外の代案は外側にいたら思いつくはずもないので、まあ時間の流れってそんなもんですよね、と言うずるい立場をとっている。

地域の復興がどの企業を誘致するかという方向性でしか進められなくなっているのは、やっぱりどうかと思うけども。
一回成功したやり方でなきゃ怖くて踏み出せないっていう集団がたくさんいるんだなあと思う。
集団で動いていると、どんなに成功が続いても、誰か1人が不安になって停滞を選んでいく。
映画の一作目のヒットに乗っかった2が大崩れしがちなのもこの感じなのかな。



光と道と芝の色、全てがぼんやりしていた日だった


沖縄では年越しに沖縄そばを食べるのが恒例です。

行ったお店にはすでにたくさんの人が店の外で待っていて、だけど凄まじい回転率でお客は次々とそばを食らい、店から吐き出されていった。

名前を書いて、入り口付近で人に混じってわらわらと待っていると、
ある少年がとんでもない事実に気付き、果敢にも声を上げる。

「アラカキって苗字多すぎる!」

見にいくと、その少年家族を含め6~7組がアラカキさんだったものだから、
現場はちょっとばかり混乱してしまっていた。


同じ姓でありながら、異なる思い出を持ち、異なる時間を過ごしてきたであろうたくさんのアラカキたち。
アラガキって呼ばれたり、にいがきって読まれたり、カッキーというあだ名をつけられたり。


もしかしたら、それぞれの遠い遠い先祖たち同士はこうやって年末に集まって一緒に年を越していたかもしれない。

今は道や血を違えてしまったかもしれないけど、同じ島を生きてきた人たちの素敵な年末を目撃できてよかった。

少年のお母さんは
「イッチバン大人気の名前なんだよきっと!」と言っていて、周囲の人はこっそり笑っていた。
これもまた年越しの空気が呼びだした、ちょっと浮き足立つような、めでたくて、白い吐く息がよく似合う、じんわりと他人に心を許したくなるあの景色。


店内のテレビには紅白が流れていた。
みんな喋ったり笑ったりしていた。


合法的夜ふかし。





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