町田あっさん

翻訳家、ときどき映画ライターです。サッカー観戦も大好き。 noteには時事や私事、翻訳…

町田あっさん

翻訳家、ときどき映画ライターです。サッカー観戦も大好き。 noteには時事や私事、翻訳のこと、映画やサッカーのことを綴ってまいります。

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ぼんくら翻訳家はサイバーなnoteに独り言を綴る

翻訳業界の隅っこで細々と食いつなぐ翻訳家です。映像、書籍、雑誌と、ジャンルを選ばず仕事を請け負っております。 プロの映画ライターとしての活動実績もあり。 <翻訳業での主な実績> 「ナイトメア・アリー」(吹替翻訳) 「エジソンズ・ゲーム」(吹替翻訳) 「名探偵モンク」(字幕翻訳) 「西洋の自死 移民・アイデンティティ・イスラム」(東洋経済新報社) 「背番号10のファンタジスタ」(ベースボール・マガジン社) 「ナショナル ジオグラフィック日本版」 ホームページ:http://

    • 『マリウポリの20日間』から垣間見るウクライナの800日間

       アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した一作。「本当はこのような映画は作りたくなかった。ロシアの侵略をなかったことにしたい。私に歴史は変えられないが、映画は記憶となり、記憶は歴史を作る」というミスティスラフ・チェルノフ監督の崇高なオスカー受賞スピーチは忘れがたい。  これはAP通信のウクライナ人記者であるチェルノフが、2022年2月のロシアの侵攻開始から20日間、国境の町マリウポリに踏みとどまり、危険を承知で現地の惨状を国際社会に発信しようと奮闘した記録である。  戦

      • 『オッペンハイマー』の編集から読み解くノーランの構想

         近年のクリストファー・ノーラン作品って、『インセプション』『インターステラー』『テネット』のようなオリジナルSFは独りよがりで退屈するけど、『ダンケルク』や『オッペンハイマー』のような史実を脚色した映画は長くても見飽きない。今後とも後者の路線で行ってくれるといいんだがな。  さて、上映時間180分の本作は、明確な章立てこそなかったものの、事実上は(1)前半生(2)マンハッタン計画(3)原爆投下後の3部構成になっていた感じ。「原爆の開発者の伝記映画」だとばかり思って観始めた

        • 世界線が引けなくて

           本稿のタイトルを見て首をひねっている方は、おそらく少なくないだろう。  私も「世界線」という耳慣れない言葉を、つい最近になって初めて見聞きした。それも2度、立て続けに。  1度目は日本テレビで3月上旬にオンエアされたドラマ「テレビ報道記者」。芳根京子の演じた新人記者が、仕事に煮詰まり、「セカイセンがどうのこうの」とボヤいたのだが、なにしろ初めて聞く言葉だったので、「世界戦」だか「世界船」だかもわからないまま聞き流した。  2度目は雑誌「GQ JAPAN」4月号に載っていた

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          2024年オスカーナイト・ウォッチング!

           現地時間3月10日に挙行されたアカデミー賞授賞式は、『オッペンハイマー』が主要部門の多くを獲得(13部門でノミネートされ7部門で受賞)。『哀れなるものたち』(11部門でノミネートされ4部門で受賞)がその落ち穂拾いをしていったという図式に。  日本勢は『君たちはどう生きるか』が長編アニメ賞、『ゴジラ-1.0』が視覚効果賞をそれぞれ受賞する快挙となった。おめでとうございます。ただ、残念なことに前者の関係者は誰も式典に出席しておらず、後者の山崎貴監督は英語のスピーチ原稿を用意して

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          痛快ながら やがて悲しき『ダム・マネー ウォール街を狙え!』

           米国のネット掲示板上でつながった個人投資家たちが、斜陽の会社の株式を一斉に購入。そのため、その会社に空売りを仕掛けていたヘッジファンドが大損を出して・・・という2021年の騒動は、日本の一般紙でも報じられていたところ。一方、私が知らなかったのは、その掲示板に明確な呼びかけ人がいたということだ。  個人投資家のキース(ポール・ダノ)は、企業価値が不当に低く評価されていると感じたゲームストップ社の株をSNSの動画で推奨。それを見た草の根の投資家たちが買いに回ると、株価はじりじり

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          大人のメロドラマ『枯れ葉』はアキ・カウリスマキの魅力満載

           監督引退宣言をしていたフィンランドの鬼才、アキ・カウリスマキの6年ぶりの復帰作。  アンサはスーパーのレジ係、ホラッパは3K職場の工員。カネもなければ希望もなく、もはや若くもないブルーカラーの女と男が、偶然出会って、惹かれ合い、すれ違う顛末。 ・・・と、そんなあらすじを聞いただけだと、手垢の付いたメロドラマだと思うかもしれないが、いやいや、カウリスマキ一流のユーモアやくすぐりが随所に仕込まれているので、決して食傷することはなく、むしろ鑑賞後感は暖かだ。  その一例。互いの

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          『哀れなるものたち』とは、さて、誰のことなるや

           冒頭はゴシックホラー風の研究室。ウィレム・デフォーがつぎはぎだらけの顔で出てくるので、てっきりメアリー・シェリー風の人造人間のたぐいなのかと思いきや、外科医である父親に人体実験された結果、そうなったのだと次第に判明する。  このバクスター博士、父親の虐待に怒りや恨みを募らせるどころか、むしろ科学に貢献できたことを誇らしく思っている様子。長じて自分も外科医になり、上半身は獣で下半身は鳥類(あるいはその逆)なんて奇天烈な生き物を大量に作っている。天才的な執刀技術と、生命倫理の欠

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          『サン・セバスチャンへ、ようこそ』の確信犯的なレトロ趣味にほくそえんだら

           今やサッカー日本代表の攻撃の軸になろうとしている久保建英だが、スペインでのプロデビューからの3シーズンは、迷走と失意の連続だった。名門レアル・マドリードに籍を置きながら、あちらこちらの中堅チームにレンタルに出される日々。  そんな久保の才能を本格的に覚醒・開花させたのが、2022-23シーズンから完全移籍したレアル・ソシエダというクラブだった。そう、バスク地方の風光明媚な都市、サン・セバスチャンを本拠地とする古豪である。  ウディ・アレン監督の最新作は、美食と国際映画祭で

          『サン・セバスチャンへ、ようこそ』の確信犯的なレトロ趣味にほくそえんだら

          『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』はダークさを廃したスイートなお味

           世の中には、「別に根拠はないんだけど何となくみんなが真実だと思っていること」や、「真実だとさえ思われていないのに、なぜか多くの人の常識に刷りこまれているようなこと」が厳然として存在する。血液型や星座別の性格診断なんかはその典型例ですね。  あるいは犬の習性や行動に関する半可な知識なんかもそう。米国の動物コメディ映画などを観ていると、誰かがボールを投げるたびに、反射的にそれを追いかけてしまう登場“犬”物なんかがよく出てくる。  それから最近観たある映画では、人間の言葉を話せる

          『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』はダークさを廃したスイートなお味

          退化する炊飯器

           23年前に生まれて初めて買った炊飯器がオシャカになった。ここで強調しておかなければならないのは、プラスチックの蓋の部分が経年劣化で割れただけで、炊飯や保温といった基本性能にはすこぶる満足できていたということである。壊れるまでは、ちゃんと美味しいご飯が炊けていたし、問題なく保温できていたのだ。  なにぶん、親元を離れて以降は他の炊飯器を使ったことがなかったので、当然、どの炊飯器に買い換えても、同等の満足感が得られるものと思っていた。今の世の中、電化製品の性能にそれほどの差はな

          退化する炊飯器

          クラシックを聴くと寝てしまうあなたのための『TAR/ター』の鑑賞法

           感想や批評を書く とっかかりが十人十色になりそうな一作。上映時間158分もの長尺であるところにもってきて、クラシック音楽への造詣や一流オケの“楽団内政治”についての知識も、人によってかなり違うでしょうからね。  音楽には素人の筆者の場合、最も印象深かったのは、割に早い段階で登場するロシア人チェリストの「異物感」だった。  おそらく確信犯的な作為だと思うが、トッド・フィールド監督は本作の出だしをドキュメンタリー・タッチで撮っている。 (1)細かい文字を画面一杯に詰めこんだ特

          クラシックを聴くと寝てしまうあなたのための『TAR/ター』の鑑賞法

          映画『AIR/エア』と大谷翔平の ちょっと気づかれにくい共通項

           エンゼルスの大谷翔平は、メジャー6シーズン目も二刀流で活躍。昨シーズンのMVP受賞に続いて、今オフにはWBCで日本チームを優勝に導くなど、相変わらず有卦に入っている。  ただ、所属のエンゼルスはその間、優勝どころか、プレーオフ出場も一度もかなわず、大谷はその華麗な経歴に大リーグの優勝トロフィーを付け加えることができていない。最初にメジャーに渡る時点で、ヤンキースやレッドソックスのような強豪チームに入っていれば事情はまた違ったのだろうが(さらにはギャラも良かったのだろうが)、

          映画『AIR/エア』と大谷翔平の ちょっと気づかれにくい共通項

          『フェイブルマンズ』でスピルバーグが遺さずにいられなかったもの

           小説であれ映画であれ、自伝的な作品は往々にしてつまらないものになりがちだ。作り手は、一義的には自分にとって思い入れのある出来事を書物なり銀幕なりに定着させたいわけだから、他人から見たらどうでもいい話だとわかっていても、おいそれとそれを改変できるものではない。よそ様のご家族のホームビデオを見せられても、すぐに退屈しちゃうのと同じですね。  希代のエンターテイナーたるスティーブン・スピルバーグと言えども、この陥穽からは抜け出せなかったんだねというのが、本作の第一の感想。それでも

          『フェイブルマンズ』でスピルバーグが遺さずにいられなかったもの

          2023年オスカーナイト・ウォッチング!

           今年度のアカデミー賞授賞式は「エブエブ旋風」に席巻された。ノミネートされた10部門中の7部門で受賞。それも作品、監督、主演女優、助演女優、助演男優、脚本、編集といった主要各賞をゲットしたのだから、これ以上の僥倖は望めまい。  監督コンビのダニエルズ(ダニエル・シャイナートとダニエル・クワン)は結局、脚本賞、監督賞、作品賞の順に三度登壇したが、高校時代の教師に感謝を述べるなど(そんな映画人は滅多にいない)、そのたびに聞き手を飽きさせないスピーチを披露。とりわけダニエル・クワン

          2023年オスカーナイト・ウォッチング!

          鬼才フランソワ・オゾンが自己決定権の尊重を穏やかに訴える『すべてうまくいきますように』

           85歳を目前にして脳卒中で倒れたアンドレ。重い障害を負った我が身に絶望し、長女に安楽死の手配を命じるが・・・。  さて、この映画を好きになれるか否かは、ひとえに「終わらせてくれ。こんな状態で生きていたくない。こんな私は私ではない」というアンドレ(アンドレ・デュソリエ)の叫びに共感できるか否かにかかっているのではないかと思う。  私は大いに共感できるので、長女(ソフィー・マルソー)と次女が、心に葛藤を覚えつつも、父親の願いを頭から否定しなかったことに好感を持った。  似たよ

          鬼才フランソワ・オゾンが自己決定権の尊重を穏やかに訴える『すべてうまくいきますように』