見出し画像

欧州CL決勝:白い巨人が通算15回目の戴冠

レアル・マドリード 2-0 ドルトムント (2024.6.1.ウェンブリー)
 ドルトムントは健闘した。その点は間違いない。スコアレスでゲームが進んだ74分までは、むしろ優勢だったと言ってもいい。だが、サッカーは90分間で勝負をつけるスポーツだった。

 望外に決勝の舞台に立ったドルトムントは、スタメン中の6人がドイツ国籍。基本システムは4-1-4-1だが、ビルドアップの局面では、しばしばアンカーのエムレ・ジャンが両センターバックの間にまで位置を下げる。
 対するレアルは、スペイン国籍のスタメンがナチョとカルバハルのみ。中盤をダイヤモンド型にした4-4-2だが、両翼に特定の選手を張らせることはせず、左MFのクロースなどは、むしろアンカーのカマビンガより低い位置から、ロングパスでゲームを作った。

 前半、得点機の回数が多かったのはドルトムント。21分と23分には、立て続けにアデイエミとフュルクルクがスルーパスでGKクルトワと一対一になるが、前者はカルバハルにシュートをブロックされ、後者は右ポストに嫌われた。
 28分にはまたもやアデイエミが最終ラインのウラを取るも、シュートはクルトワに弾かれ、そのこぼれ球に反応したフュルクルクの弱いヘディングもGKの手中に収まった。結果論だが、ここでフュルクルクが反射的に頭を合わせにいかず、いったんバウンドさせてから蹴りこんでいたら、トロフィーの行方が変わっていたかもしれないな。もちろん、言っても詮無きことではあるが。
 故障上がりのクルトワは、実はこの日が今季のCL初出場。にもかかわらず、味方のDF陣はかなり処理の難しいバックパスをばんばん返す。そのため「おいおい、猿も木から落ちることにならないか」と余計な心配もしてしまったが、そんな素人観戦者の杞憂をよそに、41分にもこのベルギーの名手はザビッツァーのミドルを弾いて見せた。

 ハーフタイムにアンチェロッティ監督から活を入れられたレアルは、後半立ち上がりから攻勢に出た。クロースが直接ゴールを狙ったFKはGKコーベルに弾き出されたが、それに続くCKをカルバハルがニアサイドでヘディングシュート。これ自体は枠外だったが、振り返ればそれが先制点の「予行演習」になっていた。
 スコアが動いたのは、皮肉にもドルトムントのテルジッチ監督が切り札のロイスを投入した直後のこと。その74分、先ほどと同じ左からのCKを、カルバハルが同じようにニアで合わせ、今度はネットを揺らす。スペイン代表のベテランSBは、これまた先ほどと同じようにマーカーのマートセンを突き放し、首尾良くフリーになっていた。
 サッカーのヒーローと戦犯が紙一重だというのはこういうところ。最後にこの夜のMVPとなるカルバハルは、前述した前半21分と23分のピンチではドルトムントのオフサイドを取り損ねた張本人(判定対象のDF)だったし、28分にはアデイエミとのスプリントで完全に走り負けていた。このうちの1つでもドルトムントがゴールに結びつけていたら、カルバハルの立場と精神状態はかなり違ったものになっていたはずだ。
 カルバハルからすれば対面のアデイエミの顔も見たくないという心境だったはずなので、ロイスの登場シーンで、試合を通じてあまり見せ場のなかったサンチョではなく、アデイエミがベンチに下がった時には、「ごっつぁんです」と言いたくなったことだろう。

 先取点の後は延々とレアルの時間帯。テルジッチ監督はアンカーを削って点を取りにいくが、奏功せずに枠内シュートを浴び続けた。83分には、その圧力に屈するかのようにマートセンが最終ラインでまさかのパスミス。それがドルトムントOBのベリンガムからビニシウスへと渡り、手痛い2失点目を喫する。好セーブを連発していたGKコーベルもビニシウスの決定力には及ばず、マートセンはカルバハルからババ抜きのババを引かされたかのように、2失点に絡む憂き目を見た。
 87分に、そのマートセンのクロスからフュルクルクがヘッドをぶちこむも、無情のオフサイド判定。アンチェロッティは、最終盤にはセンターバックを3枚に増やす手堅さで逃げ切り、レアルを2年ぶりに欧州の頂点に導いた。個々の選手、チーム、監督といったすべてのレベルの経験値で、ドルトムントとの差は歴然だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?