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ユーロ2024:総評とベストイレブン

<出会い頭の事故が多発>
 グループリーグの2巡目が終わったDAY9に、私が今大会の傾向として挙げたのは次の3点。
(1)スコアレスドローがわずか1試合しかないこと。
(2)番狂わせがほとんどないこと。
(3)オウンゴールが多いこと。
 決勝トーナメントに入ってからも、この3点セットはほぼ踏襲された。

(1)’ 一部のチームが引き分けも視野に入れるGL第3戦こそ12試合で3つのスコアレスドローが出たが、えてしてガチガチの守り合いになりがちな決勝Tでは15試合で2つしか出ず。
 おそらくそのことと無関係ではなかろうが、前回のユーロ2020では決勝Tの15試合中、8試合で延長戦までもつれこみ、うち4試合がPK戦決着となったのに対し、今大会の決勝Tでは延長まで行ったのが5試合、うちPK戦決着が3試合にとどまった。

(2)’ GL第3戦でメンバーを落としたポルトガルがジョージアに不覚を取ったのが、おそらく今大会で最大のアップセット。
 GL初戦でベルギーがスロバキアに敗れたことと、ラウンド16でイタリアがスイスに屈したことは、(ネームバリューとしてはインパクトがあったかもしれないが)近年のベルギーとイタリアの状況を考えれば、それほどの驚きはない。

(3)’ 実を言うと、(2)と(3)はユーロ2020でも特徴的だったこと。オウンゴールの数はユーロ2016の合計3から、ユーロ2020では合計11に急増していた。そして今大会も、それに迫る合計10に。うち3つはノックアウトステージで記録されている。
 ただ、前回大会ではクロスやシュートを阻もうと意図的に身を挺したDFが惜しくもOGにしてしまったケースが多かったのに対し、今大会では他の選手やゴールマウスに跳ね返ったボールが、至近にいたDFに偶然当たってゴールインしたという「出会い頭の意図せぬ事故」が多かった印象だ。

<上位進出国の寸評>
 スペインのデ・ラ・フエンテ監督は、前任のルイス・エンリケが率いたユーロ2020や2022年W杯のチームから、顔ぶれを一新させた。代表から引退したベテランはともかく、次代のラ・ロハを担うと見られた中堅どころも軒並み外し(あるいはベンチ要員にとどめ)、代わりにスペイン国籍を得たばかりのル・ノルマンや、伸び盛りのラミン・ヤマル、ニコ・ウィリアムズ、さらにはこれまで代表からお呼びのかからなかったファビアン・ルイスらを重用。
 おかげで初戦のスタメンを見た時にはかなり驚かされたが、決勝までほぼそのままのラインナップを維持し、全勝優勝を飾ったのだから、誰も文句をつけようがない。
 ゴール数も全7試合で15得点と申し分なし。しかも3ゴールのダニ・オルモを筆頭に、得点者は10人を数えた(他に相手OGが1)。

 対照的に得点力不足に苦しんだのが、2022年W杯準優勝のフランス。セミファイナルでコロムアニが1ゴールを挙げた以外は、相手OGとPKの計3点しか取れなかった。そんな状態でもベスト4まで勝ち上がれたのは、逆にすごいとも言えるが。

 2大会続けて準優勝のイングランドは、いささかケインとベリンガムに頼りすぎの感が。ラウンド16までの4試合で、その飛車角の2ゴールずつしか点が取れなかった。準々決勝以降に他の3選手がゴールゲットしたので、どうにか面目は躍如できた感じだが。
 長期政権を続けるサウスゲート監督は、それまで「張り子の獅子」だったイングランドを確実に再生させはしたが、あと一歩でトロフィーに手が届かない。3バックと4バックを使い分けることや、交代カードの使い残しが多いことは、自国の関係者からも賛否両論あると思われる。どちらも「勝てば官軍」になれることなんだけどね。

 ベスト4の一角に食いこんだオランダは、1勝1敗1引き分けでGLを何とか3位通過した状態だったが、決勝Tではドローに恵まれた。6試合で10ゴールはそれなりに立派な数字。近年はビッグトーナメントに出損なうことも多いが、2014年W杯のベスト4など、たまに存在感を示してくれる。

 逆に決勝Tのドローに恵まれなかったのが、開催国のドイツ。極東の後進国(日本)に敗れてGL敗退に終わった2022年W杯の捲土重来を期した今大会、GLでは好調な滑り出しを見せていたが、準々決勝で早くも無敵艦隊とぶつかってしまった。
 ただ、大会の運営面ではさすがのサッカー先進国ぶり。テレビで見ている限りだが、不可抗力の雷雨でゲームが一度中断したことと、何度か観客がピッチ内に乱入したこと以外は、目立ったトラブルはなかったと思われる。

<ベストイレブン>

         ケイン(英)

ガクポ(蘭)  ダニ・オルモ(西)  ラミン・ヤマル(西)

     ライス(英)   ロドリ(西)

テオ(仏) ラポルト(西) ストーンズ(英) サカ(英)

      ジオゴ・コスタ(ポルトガル)

 今大会はゴールを固め取りしたアタッカーが現れず、ケイン(英)、ダニ・オルモ(西)、ガクポ(蘭)、ムシアラ(独)、ミカウターゼ(ジョージア)、シュランツ(スロバキア)の6人が、いずれも3ゴールで得点王を分け合った。そのうちベスト4に残った前三者をランクインさせることに。
 残る右ウイングには、決勝戦の前日に17歳になったばかりのヤマルを、ヤングプレイヤー賞込みで選出。
 ボランチには決勝に進んだ両チームの心臓を。2人とも配置の上ではダブルボランチの一角を占めながら、実質的にはアンカー的な仕事を担うという共通点があった。
 左SBには攻守に奮闘する姿の目立ったテオを選出。CBはそれぞれの所属チームを決勝まで導いた両DFで固めたい。右SBには異論もあるかもしれないが、1試合の中で何度もポジションを変えさせられながら、サウスゲートの無茶振りに懸命に応えていたサカを選んだ。
 GKはベスト4チームの面々に甲乙つけがたし。そこで決勝T1回戦のPK戦で相手のキックを3本すべて封じたジオゴ・コスタ(ポルトガル)に降臨願った。

* 1カ月にわたるユーロ2024の記録を、下記のホームページにまとめてあります。よろしければお立ち寄りくださいませ。
http://kirikabu.my.coocan.jp/euro2024.htm

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