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君と私と、時々馬肉。


 私は馬肉が好きだ。
 なぜ好きかと問われれば、それはよくわからない。

 きっと年齢のせいなのかもしれない。
 そう思って私は運転免許証を取り出したが、私はまだ満26歳であった。

 まだまだカルビだの霜降りだのと食べられる年齢であるというのに、なんという老いぼれた胃であろうか。

 だが、私は断固としてそんな意見に耳を傾けやしない。
 なぜなら、私はその馬肉に恋のような情熱を抱いてしまっているからだ。

 目の前の黒いお皿に乗った馬肉は、まるでルビーのように赤く艶やかに輝いている。

 私は箸を持ち、そのひと切れに照準を定める。
 その一枚を摘まむと、その上にニンニクを乗せ、少し甘めの醤油をつけた。

 そしてそれを口の中へと頬張った。

 奥歯で噛みしめるほどに、馬の躍動が口の中へと伝わり、暴れだす。
 繊細かつ豪胆な筋肉繊維はやがて一つ一つが解れだし、私はそれをおちょこに注がれた辛口の日本酒でクイっと流し込んだ。

 なんたる幸せであろうか。
 私はそしてもう一枚、馬肉を箸で摘まむのであった。

 明くる日も、私はその黒い暖簾を潜った。

 いつもならちらほらと空いているカウンターが、今日は一席しか空いていない。
 私はそこに吸い込まれるようにして着席した。

 そしていつもの馬肉と、辛口の日本酒を注文した。
 いまかいまかと待ちわびていると、馬肉の乗ったお皿がことんと目の前に置かれた。

 そして隣にいる女性の目の前にも同じものが置かれた。
 私は思わず止まった。
 馬肉なんていう渋いものを食べる女性などいるものなのだろうかと驚いてしまったのだ。

「馬肉、美味しいですよね」
 彼女は私に向かってそう呟いた。

「そうですね」
 私は思わず口にした。

 そうして私と彼女は馬肉と向き合い、一切れを頬張り、日本酒で流し込んだ。

「若いのに、馬肉お好きなんですね」
「あなたこそ、女性なのに馬肉がお好きなんですね」

 彼女はクスリと笑った。
 私もつられてクスリと笑った。

 そして、私たちはまた馬肉を頬張った。
 空になったお皿は、少しだけ物悲しくもあった。

「次会うときは、馬肉の差し盛りにしますか?」
 彼女は顔を少し赤らめながら、私に聞いた。

「いいですね。食べたことないですし」
 私も少しだけ顔が赤らんでいた。

「それではまた」
「それではまた」

 名前も知らぬ、私の隣にいた女性。
 きっと、彼女はまた来るのだろう。

 私は振り向きもせず、店の外へと歩き出す。
 酔っているせいなのか、私は彼女を思い出し、赤羽駅まで軽やかにスキップした。

 飲み屋街の赤羽は、今日も酔いどれ達がお酒に踊り踊らされていた。

 ◆

 酔いながら書きました。
 久々に赤羽で馬肉が食べたいと思ったので、載せておきます。
 〆の馬肉と辛丹波の味が懐かしく感じています。

 あぁ、呑みたい。

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