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三人展《シェイクスピアの妹たちの部屋》|ティルーム|花モト・トモコ

 お茶をする時間、というのは特別なものだ。それがお気に入りのティセットや調度品に囲まれたわたしだけのティルームであればなおさら。まるでカフェ・ラテにのったミルクのように、日常からふわりと浮いたひとときである。

 花モト・トモコ氏による優雅で可憐な作品は、午後のやさしい陽光に照らされたティータイムを思わせる。《Favorite Sweets》は、まるでパティスリーの華やかなショーケースを覗いているかのよう。色とりどりのスイーツをひとりじめするのももちろん素敵だけれど、なんだか気のおけない友だちや大切な人を招待して、小さなティパーティーを開きたくなってしまう。

 友人や家族とティタイムを楽しみながら、おしゃべりに花を咲かせていると、ときどきふっと時間が止まったかのような瞬間がある。《Grasses》は、わたしにそんな一瞬を思い出させる作品である。今このときがずっと続けばいいな、と願うような美しい〈時〉。そのざわめきも、光も、香りも味も、かけがえのないものだからこそ、大切に過ごしたい——この時世においていっそう強く、わたしは思うのである。

 《Philosophical Flower》——窓辺で思索に耽る小さな花。

 ヴァージニア・ウルフが『私ひとりの部屋』で言うところの、シェイクスピアの妹・ジュディスも、この花のようにひとり、想像の翼を羽ばたかせていたのだろうか。花が活けられた壜には、青空がきらめいて反射する。



 にぎやかなティタイムが終わり、静寂が戻った部屋に流れるゆるやかな時。才能ある多くの〈ジュディス〉にとって、ひとりだけの時間はとても大切なものである。彼女たちは窓辺でカップを片手に、世界の隅々まで思いをめぐらせるのだ。そして紅茶にうつった自分の顔を見つめ、自分自身について考える。このときティルームは、ひとつの物語がはじまる場所になる。それはきっと、シェイクスピアの時代も、わたしたちの生きる今も、変わらない事実のはずだ。


花モト・トモコ|イラストレーター →HP
千葉大学卒業後、イラストレーターとして活動。 自ら彩色やドローイングを施した様々なマチエールの紙を用いて制作する切絵作品が特徴。ディテールにこだわった作品は独自のセンスと世界観が魅力。カッシーナ・イクスシー、三越伊勢丹、高島屋、アトレなどの広告、FIGAROjaponなどのファッション誌、ブランドとのコラボによるロゴやパッケージ、ディスプレイや動画など幅広く手掛ける。2022年3月11日ー3月20日、東京妙案ギャラリーで個展を開催。最新作のイラストレーション約40点を発表予定。

嶋田青磁|詩人・フランス文学修士課程在籍 →note
学部在学中にピエール・ルイス『ビリティスの歌』に出会い、詩の魅力に憑かれる。19世紀末の頽廃・優美さを求め、研究の傍ら詩作活動中。オンライン上のストリート「モーヴ街」では、図書館「モーヴ・アブサン・ブック・クラブ」にて司書をつとめている。



作家名|花モト・トモコ
作品名|Favorite Sweets

色鉛筆・鉛筆・水彩絵具・水彩紙・ジェッソ
作品サイズ|37.5cm×28cm
額込みサイズ|52.5cm×41cm
制作年|2019年(アーカイヴ作品)

作家名|花モト・トモコ
作品名|Grasses

色鉛筆・鉛筆・水彩紙
作品サイズ|28.8cm×20cm
額込みサイズ|39.5cm×30.4cm
制作年|2018年(アーカイヴ作品)

作家名|花モト・トモコ
作品名|Philosophical Flower

色鉛筆・鉛筆・水彩紙
作品サイズ|28.8cm×20cm
額込みサイズ|39.5cm×30.4cm
制作年|2018年(アーカイヴ作品)


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