【ひと色展2023】青いインクでふみを書く
「黒か青のボールペンでご記入ください」
公的書類の隅っこに小さく書かれている注意書き。国内では大多数の人が黒を選択するだろうが、海外だと実は青がポピュラーらしい。
視認性に優れているとのことらしいが、確かに黒よりくっきりしている。
文通を始めるとき、青のボールペンを選んだ。
別に黒でもよかったが、ありきたりすぎると思ったのだろう。
コミュニティに入って、気になる人に「はじめまして」の手紙をこしらえた。一度に5通くらい書いたと思う。
相手からの「はじめまして」に心躍らせて、いろんな話を紡いだ。
知り合いが誰もいない土地。自分を擦り切らして対価を得る。それを元手に生活し、社会に溶け込んだ。
自分でもよく分からない思いが溜まるばかりで、脱却して自由を得たい衝動に駆られた。
青は苦しさ――分かち合う人がほしかった。
青は悩み――話を聞いてほしかった。
青は想い――夢見る事を共有したかった。
仲が縮まるごとに、淀みなく言葉が溢れる。
便箋全体が青色に変わるまで、そう時間はかからなかった。
ボールペンが書けなくなったとき、文通仲間は10人を超えていた。
最後に書いたのは何だったろう?確か詩のような何かだった気がする。
インクは溜まりすぎた想いを流す雨だ。流した先は縁になり、静かに足跡を残した。
今日もまた「慎ましく・たくましく・しっかりと」生きている。
純粋かつ人間臭い青色を、遠く離れた友に捧げて――
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