見出し画像

掌編小説【食堂】♯毎週ショートショートnote

お題「噛ませ犬」「ごはん」

【食堂】(410文字)

看板にはこう書かれていた。『噛ませ犬食堂』。
僕はふと、その前で足を止めてしまった。
『噛ませ犬』。その言葉が、自分を指しているように感じてしまったのだ。
とはいえ食堂に入るのは躊躇される。入ってしまったら、自分がそうだと認めることになるからだ…。
それにしてもいい匂いがする。看板を見なくてもつい足を止めてしまうほど空腹を刺激する匂いだ。
「にいさん、入らねぇのかい」
一人の白髪交じりのおやじが声をかけてくる。
「いや…、僕は」
「噛ませ犬じゃねぇ、ってかい」
ニヤリと笑って、おやじは暖簾をくぐり入っていった。

僕は会社での事を思い出した。拍手喝采を浴びて成功した、あいつのプレゼン…。その前にプレゼンして失敗した僕は完全に噛ませ犬だ。
僕は店内に入り、一つしかないメニューを注文した。
「噛ませ犬ごはん、大盛で」
「あいよ!」
先に入ったおやじが隣から声をかけてくる。
「人生楽ありゃ苦もあるさ」
そうだ。僕は噛ませ犬でも、まだ負け犬じゃない。


おわり

(2023/1/29 作)

上記の『たらはかに』様の1/29~2/4のイベントに参加させていただきました☆
あら…、なぜか前回書いた【うっかり】で出てきた『水戸黄門』が、また出てきちゃいました(;・∀・)
『噛ませ犬』って言葉も昭和っぽいですもんね~。
などと言う私は、十年周期くらいで『あしたのジョー』にハマる癖があり、今現在もアマプラで『あしたのジョー2』を観て、キュン死しそうになっております。昭和だなー。

おもしろい!と思っていただける記事があれば、サポートはありがたく受け取らせていただきます。創作活動のための心の糧とさせていただきます☆