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掌編小説【親子】
お題「紙風船」
「親子」
風が強かった日の翌日、庭の隅に紙風船が落ちていた。
私は箒を左手に持ち換え、右手で紙風船を拾った。
空気が抜けてくしゃりとしているものの、破れてはいないし、さほど汚れてもいない。
穴の中にフッと強く息を吹き込むと紙風船はピンッとふくらんで生き返った。
なんだか神様になったみたいだ。私の息で蘇るなんて。
私はそのままポンポンと手の平で紙風船を軽くはずませながら家の中に戻り、ちゃぶ台の上に置いた。
「紙風船か」
ちゃぶ台の横で新聞を読んでいた父が言う。
「庭に落ちてたのよ」
「久しぶりに見たなぁ、紙風船なんて」
「そうよねぇ」
私は台所で手を洗い、お茶を淹れた。
「はい、どうぞ」
「ん」
私たちは二人でちゃぶ台の紙風船を眺めながら熱いほうじ茶をすする。
そこだけが殺風景な部屋の中で光っているように見える。
窓から風が入り、紙風船が微かに揺れて、カサリとちいさな音がする。
父は湯飲み茶碗を置いて、右手で紙風船を取った。
カサリ。
そしてそのままポンポンと手の平ではずませる。
カサッ、カサッ、カサッ。
「はずませたくなるわよねぇ」
「そうだなぁ」
父は少しずつ強く紙風船をはずませる。
ポサッ、ポサッ、ポサッ。
そしていきなり私の方にポンッと投げてよこした。
私は反射的に左手でポンッと打ち返した。
父も打ち返す。ポサッ。
ポスッ、ポサッ、パスッ。
数秒間ラリーは続いたが、最後は父が受け損ねて畳の上に落ちた。
紙風船は少しくたびれたようにくしゃりとなっている。
父はそれを拾い上げるとフッと強く息を吹き込んだ。
紙風船は再びピンッとふくらんで生き返る。
「なんだか神様になった気がするなぁ」
残りのほうじ茶をすすりながら、父は笑って言う。
親子だなぁ、と私もほうじ茶の残りをすすりながら思う。
紙風船は微笑むように静かにちゃぶ台の上でくつろいでいる。
おわり (2022/9 作)
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