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嘘の素肌

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「何者でもない僕に付加価値を与えてくれるのは、いつだって好奇心旺盛な女性達でした。」 桧山茉莉、二十七歳。仕事や人間関係に不自由なく生きてきた"何者でもない男"を取り囲むのは、…
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#希死念慮

嘘の素肌「第10話」

嘘の素肌「第10話」

 仕事が一段落する頃には、既に終電がなくなっていた。斜向かいの席で作業をしていた学生もとっくに行方を眩ませ、店内にいた客のほとんどが店を出ていた。予定より早く時が流れ過ぎていることに焦り、データファイルの校閲は家に帰って入浴後にやることにした。就職活動の際にお世話になった大学の先輩が口癖のように言っていた「仕事と付き合いと遊び、そのどれも疎かにしちゃだめだから、削るのは睡眠がベストだ」という言葉を

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嘘の素肌「第13話」

嘘の素肌「第13話」

 ホテルを出る直前、麻奈美さんが僕へ現金で三万円を手渡してきた。少しだけど、受け取って。恒例となった別れ際の金銭贈与。僕はその金を財布に仕舞った後、すぐに和弥へ連絡をした。

 麻奈美さんから貰ったお金は、必ず和弥との酒に使うと決めていた。彼女が僕との関係にあえて金銭を挟むのには様々な理由がある。それをすすんで語りたがる無粋さを麻奈美さんは持ち合わせていないが、きっと彼女が僕を娼婦のように買ってい

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嘘の素肌「第16話」

嘘の素肌「第16話」

 森山茂人と桧山裕子の歴史は一九八七年のバブル景気初頭から始まり、大恋愛を経た一年後の冬に僕は産まれた。

 当時茂人は大手不動産の人事部に所属しながら、同僚で七つ歳が下の女性と結婚し、子どものいない夫婦生活を送っていた。バブル真っ盛りのタイミングで人事部の新卒採用を担当していたこともあり、今では考えられぬほどの売り手市場を茂人は経験していた。一流大学の履歴書と出逢えば即時3C(ステーキ・寿司・し

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嘘の素肌「第17話」

嘘の素肌「第17話」

 ばつの悪い空気感を濁すように、僕の過去話が終わってからは三人で酒を浴びることに集中した。冷蔵庫に買い溜めしておいたチューハイ缶のみならず、梢江が持ってきたウイスキーや僕が愛飲しているジンのボトルが空になって、さすがの酒豪である梢江も泥酔と呼ぶべき呂律に変じ、気づけばベッドに転がって寝息を立てる始末。寝顔が愛らしい梢江の頬にキスをすると、和弥から「王子様かよ、テメェは」と鼻で笑われた。「お前よりは

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嘘の素肌「第18話」

嘘の素肌「第18話」

 和弥はコンビニ駐車場のスペースガードに腰を下ろし煙草を二本灰にすると、僕の部屋へは戻らずそのまま三鷹の住まいへ帰っていった。できるだけ回り道を選択しながら帰路を辿り、和弥へ慊りない不満をぶつけてしまった徒労感を抱えながら僕も自宅へ戻った。

 カーテンの隙間から漏れる青白い光が暗く沈んだ部屋に差し込み、ローテーブルに散乱した酒の缶を照射している。梢江が眠るベッドに息を殺して潜り込んだあと、添い寝

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嘘の素肌「第19話」

嘘の素肌「第19話」

 瑠菜の入院理由はインフルエンザだった。部外者には季節モノのウイルス程度で入院とは大袈裟だと揶揄されそうではあるが、三日三晩三十九度近く熱が続いた瑠菜は先天性無痛無汗症の弊害で発汗が困難な状態にあり、生死の狭間を彷徨うほどの事態にまで発展した。一年間、就労支援施設での生活へ健気に取り組み、これから更に自分のできることを増やしていこうと考えた矢先の緊急入院。僕も仕事終わりや休日を利用して瑠菜の元へ毎

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