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嘘の素肌

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「何者でもない僕に付加価値を与えてくれるのは、いつだって好奇心旺盛な女性達でした。」 桧山茉莉、二十七歳。仕事や人間関係に不自由なく生きてきた"何者でもない男"を取り囲むのは、…
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#恋愛

嘘の素肌「第4話」

嘘の素肌「第4話」

 約束の正午二時過ぎ、橋本駅の映画館前で瑠菜と合流した。黒を基調に猫の模様が描かれた杖でアスファルトを叩きながら、杖を握らない方の手を軽快に振り上げ瑠菜がこちらへ歩いてくる。「茉莉くんお待たせっ」今は生活に支障をきたすような関節への問題がないので、瑠菜も普段は車椅子ではなく杖一本で生活することができている。僕と落ち合ってからは杖をコンパクトに折り畳んで、肩からぶら下げたトートバッグに仕舞っていた。

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嘘の素肌「第6話」

嘘の素肌「第6話」

 ゴールデンウィーク明けの水曜に和弥から呼び出され、僕は仕事を予定より早く切り上げ新宿へと向かった。今年は連休を利用して何人かの女とは会ったが、行楽のようなものは一つも成さなかった。特別会いたいわけでもない人に会う惰性日記。先延ばしにした予定の穴埋めに時間を費やし、その素肌をコレクトするだけの毎日を過ごした。

 排他的な女との付き合い方に自分で呆れ始めると、僕は和弥と話したくなってくる。中学時代

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嘘の素肌「第7話」

嘘の素肌「第7話」

 煙草を蒸かしながら新宿を歩き回っていると次第に風俗欲はすり減っていき、気づけば僕らは大久保公園前に辿り着いていた。「みろよ、ほとんどオークションだぜ」顎で視線を誘導してきた和弥に合わせ、斜向かいの通りへ意識を伸ばした。道の端には点々と、まるで星のように佇む女たちの姿があった。立ちんぼは繁華街の外れで何度か見かけたことがあったが、聖地であるこの大久保公園周辺区域はとにかく数が多く、中には和弥が言う

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嘘の素肌「第8話」

嘘の素肌「第8話」

 目覚めると既に梢江は部屋を出ていた。宅飲みで捻出されたプラゴミ類は一つのビニールに纏められており、ローテーブル上には空き缶を文鎮代わりにしたレシート裏の書置きがあった。案外達筆な字で「お邪魔しました。セックスは七十九点です」という文言が、電話番号の隣に小さく添えられていた。二日酔いの頭痛をロキソニンで流し、まだ梢江の香りが沁み込んだままの枕へ後頭部を埋める。壁掛け時計の短針は7を差している。始発

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嘘の素肌「第10話」

嘘の素肌「第10話」

 仕事が一段落する頃には、既に終電がなくなっていた。斜向かいの席で作業をしていた学生もとっくに行方を眩ませ、店内にいた客のほとんどが店を出ていた。予定より早く時が流れ過ぎていることに焦り、データファイルの校閲は家に帰って入浴後にやることにした。就職活動の際にお世話になった大学の先輩が口癖のように言っていた「仕事と付き合いと遊び、そのどれも疎かにしちゃだめだから、削るのは睡眠がベストだ」という言葉を

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嘘の素肌「第13話」

嘘の素肌「第13話」

 ホテルを出る直前、麻奈美さんが僕へ現金で三万円を手渡してきた。少しだけど、受け取って。恒例となった別れ際の金銭贈与。僕はその金を財布に仕舞った後、すぐに和弥へ連絡をした。

 麻奈美さんから貰ったお金は、必ず和弥との酒に使うと決めていた。彼女が僕との関係にあえて金銭を挟むのには様々な理由がある。それをすすんで語りたがる無粋さを麻奈美さんは持ち合わせていないが、きっと彼女が僕を娼婦のように買ってい

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嘘の素肌「第18話」

嘘の素肌「第18話」

 和弥はコンビニ駐車場のスペースガードに腰を下ろし煙草を二本灰にすると、僕の部屋へは戻らずそのまま三鷹の住まいへ帰っていった。できるだけ回り道を選択しながら帰路を辿り、和弥へ慊りない不満をぶつけてしまった徒労感を抱えながら僕も自宅へ戻った。

 カーテンの隙間から漏れる青白い光が暗く沈んだ部屋に差し込み、ローテーブルに散乱した酒の缶を照射している。梢江が眠るベッドに息を殺して潜り込んだあと、添い寝

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