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【制作方法】つらくても、期待されれば生きていける話をどう設計したか

つらい目に遭っても、誰かに期待されたら生きていける話、「また乾杯するために。」をどのように制作したか、備忘録と手順の検証のため記します。

制作にあたって、闇雲に作ってまぐれ当たりを待つ余裕はないので、効果的に人の気持ちを動かすセオリーを使って、できるだけ「おもしろかった」に近づけることを目指しました。

面白く観られる作品には、共通する要素があります。
たとえば、三幕構成や物語の型、キャラクターの立て方、感情ラインなど、コンテンツの品質を高めることができる、原則のようなものです。

ただ、書籍に紹介されているこうした原則やセオリーは、広く応用できるように一般論化されているので、自分の作品を作る際には、どうしてもフィットしない部分があります。

今回の「#また乾杯しよう」の場合だと、乾杯というテーマにストレートにつながり、かつ、「よかったなあ」と思わせる話にするための筋道の引き方ですね。

こうした個別事例を教えてくれる教則本はないので、自分で工夫して埋めることになります。そこをどうやったかをまとめました。

コンテンツの品質を高めるために、狙いを立てて、そこに至るように設計します。出来上がった後、設計通りのアウトプットになっているか検証し、調整を加えていきます。



■準備したこと

物語の設計図であるプロットを作ります。いきなり作るのは難しいので、何のために、どう作るか、小分けにして考えていきます。

(1)テーマ「乾杯」の意味を分析

乾杯に込められるものは概ね、祈り、祝い、感謝。
ゴールが乾杯だったら、変化する前は逆の状態です。
すなわち、
(ゴール)乾杯できる関係←→(スタート)乾杯できない関係

「乾杯できない関係」とは、向き合っていない、心を許していない関係。
なおかつ、乾杯を意識するので、最初から対立しているわけではなく、気まずくなったとか、仲がこじれた状態だと推測できます。


(2)参考作品分析

物語のセオリーはどんなところにあるのかを探ります。舞台は現在の世の中で、人とのつながりを再確認するようなお話で、読んで心が動いた作品を数本集め、傾向を分析しました。

●読者のどんな欲求にこたえているか

私が胸を打たれたある作品では、仕事の中に幸せを感じられるようになっていました。
主人公は、物語の途中で、関係者と正対することで、自分が仲間たちから支えられていることが感じられるようになります。
支える行為や渡される成果物によって、その情熱や真剣さを真正面から受け止めていました。

ここから逆算すると、こんなニーズに応じる構造だと推測できます。
・仕事の中で幸せを感じたい。
・大切に思っていることが伝わってほしい。
・かけがえのない存在なのだと認めてられたい。
・頑張っていることが結実し、報われたい。

今回の場合、仕事仲間との再会を望むので、どんなことがあったら嬉しいかな? 乾杯したいと思うほど強く、その人に会いたいと思うかな? というところから逆算します。


●見どころは「誤解」

引き込まれて何作も続けて読んだ短編集では、「誤解」を中心軸にしたサスペンスが組まれていました。登場人物と読者の認識が、途中で反転する構造を使っています。

抜粋するとこんな感じ。
・仕事が終わらず逃げた → 自ら缶詰になって追い込んで仕上げていた。
・金と名声が目的だろう → 顧客である子どもたちを喜ばせ、制作関係者の収入を守るため稼ぐことにこだわっている。
・この子は主人公の友人が好き → 主人公に告白したくて相談していた。
・マナーを教えリードしてくれる → コンプレックスで支配するつもり。

多くの場合、主人公と重要な登場人物との間で反転があります。
物事の表裏の関係で、誤解・勘違いが解けないまま話が進むと、悲劇や喜劇になります。

反転のタイミングは、クライマックスかその直前の決意の場面。次に多いのは、物語の中間地点。
少し変わった例では、重要な登場人物の認識反転は序盤で行われ、クライマックスは主人公の秘密の解明に充てているケースもありました。

そのほか、「○○と思ったら△△だった」の小さめの反転はよくあります。面白くするには、とにかくひっくり返せ!と説く本もありますが、闇雲にやりすぎると物語のゴールにたどり着けなくなるので、バランスを取ったり軌道修正したりします。


●人物の本性を暴くリトマス試験紙

対照的な人物の人間性を描くには、共通のアイテムや出来事への対応の違いを使っていました。たとえば、
プレゼントされたものを、捨てるか、うまく生かすか。
人が倒れたら、切り捨てるか、励ますか。

今回の場合、仕事上のトラブルで、人によって反応が違った体験を材料にしました。


■方向付け

(1)目指す読後感

日々を生きている人が抱く望みに応えるテーマにします。読んだ後、何を感じてほしいか目標を立てます。
今回は、「誰かの大切なものを守ってあげたい」という欲求に応えるものを目指します。


(2)物語の見どころになる変化の方向性

乾杯のテーマに沿った状況の変化を選択します。
人物の変化には、いろいろなパターンがあります。成長や改心、決意などですが、今回は、誤解していた認識が反転するパターンを使用します。


(3)設計上の注意

・早い段階で、この物語のゴールイメージを提示します。状況が展開したときもですね。今回は、楽しい乾杯をイメージさせることです。

・客観的に、この人が目標に到達したらいいなと思えるよう、セットアップします。

・主人公や主要人物を、物語のスタートとラストで変化させます。

・プロットでは、出来事を時系列に沿って並べただけになりがちなので、出来事によって登場人物たちの感情がどうなったか、感情ラインを一緒に考えます。

・物語の途中でも、登場人物が何をするべきか、何をしようとしているか、ゴールに対して近づいたか遠ざかったか、読者にわかるようにします。

・一本調子になることを避けます。つらいことが続く状況でも、ちょっと良くなったり、良いものが見つかったり。イケドンのときでも、抵抗や不安があったり。

・事実の時系列が破綻しないようにします。
今回の場合、新型コロナの影響で世の中に起きた変化のタイミングや、主人公の仕事における危機対応に要する日数、提案からサイト公開までの段取り、及び日数がそれにあたります。
ここがいい加減だと、違和感が生じて読めなくなります。
時間の経過は、そのまま焦りや大変さの度合いに繋がります。読者がそれを感じられるようにします。


(4)ボリュームのメリハリ

・いつ、どこで、誰が、のデータは簡潔に、分かりやすさ重視。冒頭で。

・人物描写かストーリーの進行に関係するところは、読者がイメージできるような粒度で。

・具体的に書くのは、人物が目指した目標はどうなったか。その時、主人公はどうなったのか。

・結末に至る道筋はきちんと詰める。「それなら、そういう結末になるよね」と思えるように。出来事に現実味を持たせます。

・感情の表現は「泣いた」とあっさりやるのではなく、感情によって心身に起きる現象を書きます。感情の大きさや本人の感じ方を想像できるように。


■確認したこと

(1)執筆時

プロットに沿って、書き進んでいきます。ディテールに入っていくと本来の目的を見失いがちになるので、作業の開始と終わりに次のことを確認。

・場面で描くべきことの確認
・感情の流れの確認

何か思いついたり、違和感があるたび確認しました。


(2)推敲時

プロットで設計したとおりになっているか構造的にチェックします。さらに、文章化した後に起こりがちな問題が起きていないか確認し、適宜修正します。
チェックリストは次のとおり。

・目標の提示はできているか。その目標に到達しているか。
・客観的に、この人が目標に到達を期待できるよう、セットアップしたか。
・主人公や主要人物は、物語のスタートとラストで変化したか。
・主人公や主要人物の感情の変化が分かるようになっているか。
・主人公が何を目指して行動しているか、分かるようになっているか。
・時系列は破綻していないか。切迫度が分かるようになっているか。
・あってもなくてもいい場面はあるか。もっと強められる場面はあるか。
・主人公が神の手で甘やかされていないか。
・人物の感情が動いた時、その感覚がイメージできるようになっているか。
・一文を短くできるか。パラグラフの量は長すぎないか。言葉のかっかり構造は分かりやすいか。


■迷ったこと

最後に、執筆中、判断に迷ったことを。どうすれば良かったのか、引き続き考える宿題です。

(1)タイトルの方向性
ネット記事風に内容が分かるようなタイトル、たとえば「コロナでリストラされそうなビールを守ってみた」とすべきか。でもダサい気がする。

(2)短くするべきか
3500文字まで削ったら、出来事を羅列しただけになった。構造的に大きくならざるを得ない。文字数を少なくするなら、場面の変化数や人数を減らして成立するよう、企画段階で考えておく必要がある。少ない文字数で読み応えがあるものを作るのは新たな課題。

(3)設定説明をどこまでセリフや描写で行うか。
説明セリフは気持ち悪いが、設定のテキストが長いと目に入ってこない。


なぜ、こんなことをやった?

きっかけは、勢いに任せて書いて出来上がった後、これでいいんだっけ?と迷子になったからです。
これは、きちんと指示しないで発注した結果、出来上がったものを判断できなかったり、的確な修正指示が出せない状況と似ています。
こんなことをしたら「発注者がポンコツ」と協力者の信用を失いますね。孫子なら将たる者の責任として、指揮官を罰するでしょう。

私の場合、企画をしているときと、作り込んでいるときは使う頭脳が違うらしく、同一人物だからといって、企画したことを100%記憶し、再現することができません。

そこで、企画の私からライターの私に、要件定義書を書いて依頼し、何かあったときはこれを判断基準にするようにしました。

実際にやってみて、何をすべきかを見失わず、書き進むことができました。
書き上がった原稿の中で、狙いから外れている箇所を見付け、軌道修正することもできました。
途中で変更したくなった場合でも、それはこの物語にとって有効なのか、伝えたい事を伝える役に立つのか、という基準で判断ができました。


さて、このように理屈を立てたところで、心に響くものになってるのか? と問われると冷や汗が噴出してきます。それはまだまだ、研究を続けるところです。


#また乾杯しよう

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