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大魚海棠 [視覚的な印象]

2016年中国で大ヒットを誇ったアニメーション映画「大魚海棠」が先日よりNetflixで公開が始まった。Twitterにて情報を知った私はすぐにNetflixに会員登録して早速この映画を鑑賞した。

日本のアニメを中心に見てきた私。中国のアニメの印象といえば正直、日本アニメ程のクオリティーは無いのではないか。そう感じていた。しかし、そんな印象は開始早々にして一瞬で消え去った。ただ夢中で見続けた。  「中国にはこんなにも素晴らしいアニメーション映画があるのか…」私は思わず度肝を抜かれた。

ちなみにこの作品の日本語版タイトルは「紅き大魚の伝説」である。当記事においては本家中国のタイトル「大魚海棠」(たいぎょかいどう)と記載します。

この記事ではまず映画のあらすじと映像面に関してを纏めます。

次の記事では、過去にジブリ関連の記事で取り扱った「幸せ」を題材にし、主人公 椿とっての願いや幸せはどういった物なのか。映画を通じて鑑賞者に伝えたいことは何なのか。といった点について考察したいと思ってます。


1・あらすじ

写真に映っている少女がこの物語の主人公「椿 (チュン)」である。しかし、彼女は人間ではない。海底の更に底にある”異世界”の住人である。

椿は16歳になり、成人の儀式を受ける。7日間人間界へ行き、自然の摂理を学んでくるというものだ。ただ単に人間の姿で人間界へ行くのではない。紅いイルカの姿に変身し海を泳ぐのだ。物語はここから始まる。

異世界において、上(人間界)は危険な世界だと諭されていた。過去に人間が仕掛けた罠に引っかかって命を落とし、戻らなかった者が居る為であろう。「人間と接触してはいけない」という掟がある程だ。

椿は最初こそ他の仲間と同様海を泳いでいたが、あるとき人間の兄妹が目に留まる。最初はその場を去った。しかし、椿は次第に仲間と離れ単独行動をとるようになった。

ある日の夜、椿は再び人間の兄妹の前に姿を現す。人間が持つ楽器の音に興味を惹かれる様子がうかがえるが、椿はそれらに興味を持ちつつもその場を立ち去る。

最終日である7日目、椿は人間が仕掛けた罠に引っ掛かり、命の危険に曝されてしまう。その姿を目撃した兄はナイフで網を切り、椿を助け出す。しかし兄は高波に飲み込まれてしまい、やがて海底で命を落としてしまう。椿はどうすることも出来ず、兄の持っていた楽器を口にくわえ泣き叫ぶ妹のもとを訪れた...。

間一髪危機を乗り越えた椿は異世界へと無事に帰還した。

人間を死なせてしまったと後悔と責任を重く感じている椿は、やがて異世界において行動を開始する。

「どうにか彼を生き返らせられないか?」

そう考えた椿は魂の番人とされる人物の元を訪れ、己の寿命半分と引き換えに、死亡した人間の魂を取り戻すことに成功した。

その魂は小さなイルカの姿となって蘇った。椿はそのイルカに「鲲 (クン)」という名をつけた。椿は常に鲲と一緒に居た。兄の持っていた楽器を吹くと鲲が喜ぶ場面もあった。成長する様子を椿が嬉しそうに見届ける場面も作中では見受けられる。

しかし、人間の魂が宿る鲲が現れたことにより、異世界では天災が多発し始める。その原因を突き止めていた異世界の住人はやがて鲲の存在に気づき、マークを始める。椿は天災の原因が鲲が異世界に居る為であると気付きながらも、命の恩人である鲲の魂を守る為に奔走する。

椿には味方も居た。「湫(チェン)」という青年である。湫は椿と共に行動し、椿が危機に陥った際には全力で助ける場面も見受けられる。椿のことが好きという気持ちが見受けられる場面も多々あるが、本当は友達想いの優しい青年なのであろう。

天災は悪化する一方だ。やがて大津波が押し寄せて来た。異世界の住人全員が命の危険に曝される。椿はその場で大きな決断を下す。みんなを助ける為に...。

まだ鑑賞していない方のことも考慮し、最後まであらすじを紹介するのは省略する。もっと詳しいあらすじ、結末等について気になる方は、直接映画を鑑賞して頂きたい。


2・映像美「美しい”紅”」

この作品を見て私が最初に目に留まったもの。それは「紅」を基調としたタッチの絵である。「紅」という文字は日本語版タイトルにも含まれている。この作品ではきわめて重要なものといえるだろう。

椿が着ている服は恐らく中華服をモデルとしたものと思われる。湫や多数の登場人物も椿と同様の紅い服を身につけている。

それだけではない。紅く光る提灯をはじめ、イルカ・夕日・建築物・家具・木の葉などあらゆる箇所に「紅」が使われている点が非常に印象的だ。帽子やカーテンなど、何気ない細かな点まで徹底的に”紅”が使用され、随所に中国らしさを感じさせられる。私がこの映画の中で非常に好きな点だ。

夜になっても暖色系の明かりがより一層紅を美しく照らしている。椿の住む建物の提灯の明かりはとても美しい。全体が紅く染まっているかのようだ。

紅色は中国人が最も好きな色とされている。お祝い行事などによく使われているそうだ。中国発祥のアニメであることからまず自国民に興味を持ってもらえるようにあえて紅の配色を多くしたとも考えられる。

また時間帯にも注目したい。話のキーとなる場面の多くが「夕方」なのだ。これは1日の空で「紅」が際立つ時間帯でもある。”紅”をより強調する為に監督や制作スタッフが意図的に設定したのではないだろうか...。

空が夕日に染まっている場面ではイルカや建築物など他の”紅”がより強調され、美しく描かれているように見受けられる。

次に注目したい点は「自然が生き生きとしている」という点である。

大波、吹雪、木が魔力によって一気に伸びて成長する場面など、自然の動きが非常に力強く活発的である。時には美しく、時には暴力的でもある。その姿は自然にも「いのち」が宿っているのだと私達に語りかけているかのようだ。

これは余談となるが、舞台となっている場所は中国福建省永定県にある高北土楼群の承啓楼。ユネスコ世界遺産にも登録されている由緒ある建物である。

当然ながら筆者は現地へ行ったことが無く、写真で見たままの印象であるが、中国古代から伝わる建築物という印象を強く受けた。他のアニメ映画の影響もあり現在中国に非常に興味を持っている私。是非1度訪れてみたいと思っている(記事を書きつつも早速調査中...笑)。


3・スタジオジブリとの関連

インターネット上でこの作品を検索すると「スタジオジブリの映画と雰囲気が似ている」との意見が多数見受けられる。監督や公式サイト等でこの点についての公のコメントは私の知る限り確認出来ていないが、恐らく公式にはコメントしていないだろう。

しかし私もこの意見には同意出来るものがあった。

ぱっと見の印象であるが「千と千尋の神隠し」と背景美術や登場キャラクターなど、かなり類似した点があった。魂の番人などの異世界の神様は、千と千尋の作中において油屋にお客様として出入りする神様達を参考に描かれていることであろう。また魂の番人が駐在する建物のドアノブが突然喋りだす点、街並みを海側から広角で見せる点など、映像面でも細かな所に類似している点が多数見受けられた。

制作者側はほぼ間違いなく千と千尋を参考にしつつ、この映画を制作していると思われる。しかし、千と千尋の真似しただけの作品というのは論外であると私は思う。ストーリーや結末に関しては全く別物だ。随所に参考要素を取り入れているものの、中華服や承啓楼を舞台にしているなどの点で中国らしさを見受けられ、私としてはオリジナリティを感じさせられる作品だ。

また、海の生き物から人間に変化すると言う点だけで考えると「レッドタートル ある島の物語」のストーリー構成ともどこか似ているなという印象を受けた。私が気になった点としてはむしろその方かもしれない。

・・・

次の記事へ続く。

次の記事ではネタバレも含む予定ですのでご了承ください。一週間以内に頑張って取りまとめたいと思ってます...苦笑。


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