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『東京藝大 仏さま研究室』 樹原アンミツ

出会い

身内に仏を彫ろうと専門学校に通った人がいたので、東京藝大にもそんな専門があるのかと気なった。寺社仏閣に行くことが好きで、神様や仏様と対面することはわりかし多い人生だ。博物館でも仏像にはお目にかかれるが、実際に薄暗いお堂の中からこちらを見つめられるのはやはり違う。自分だけをじっと見据えられているような、背筋の伸びるような、逆に縮み上がってしまうようなそんな荘厳さを感じる。


あらすじ

修士課程の卒業制作で1体の仏像を模刻することになった、まひる・シゲ・アイリ・ソウスケの4人の学生の奮闘を描く。

まひるが彫るのは十一面観音菩薩。文字通り顔が11個ある仏様だ。模刻として彫らせて貰う仏像を決めるのに時間がかかるが、ひょんなことから出会った山陰の田舎にある観音様に魅せられる。段取りを決めて突撃すると、すんなり模刻の許可が降りた。しかし、人気のないその寺に毎日やってくる老女に、大事な仏様を好きにして欲しくないと言われてしまう。

シゲは大日如来を彫ると早々に決めていた。シゲには中学校で美術の教師をしている父がいた。東京藝大に受かった息子に素晴らしい作品を作って欲しくてあれこれ口出しをするため、シゲは父が嫌いだった。自分が天才ではないことを知っていたシゲは、卒業前に進路を心配する父親に強く反発する。そんなシゲは模刻のために木が必要で、研究室の先生のツテで群馬の山奥にヒノキを見に行くことになる。

アイリは有名な運慶の作った不動明王を作ることにした。天才的な技術と表現力で学部の頃から賞をいくつか取っていたアイリだが、不動明王の顔が中々彫れなかった。仏像のある寺の近くに泊まり、夏休みの間何度も実物を見て制作を進めていた。アイリには人々に憤怒する仏像の表情が、どこか泣き出しそうな子供の表情に見えていた。夏の夕立と雷に慌てて、寺から帰る時に雷の音でしばらく気絶してしまう。アイリが夢で雨宿りしたお堂には、無精髭を生やした1人の「仏師」が居た。

ソウスケは八部衆の1人である沙羯羅像を彫る。真となる木にペタペタとくっ付けて形を作っていくが、優柔不断なソウスケは何度もやり直す。彼女とも上手くいかず、進路も決めきれず制作も思うように進まないソウスケは研究室から姿を消す。悶々とする中、ソウスケの地元が台風による水害に遭った。研究室が以前修復した仏像のある寺からも急遽救援を求められて、研究室メンバーが駆けつける。その水害でソウスケの美大受験を後押ししてくれた恩師が亡くなってしまう・・・



修士課程の学生で、美大受験のために浪人もしている彼らは27歳前後。私と年齢もあまり変わらないが、アーティストとしてではなく仏と向き合う1人の若者として描かれている。最後の方で教授が語るが、ギリシャやヨーロッパの国々の彫刻は土の中で眠っている時間が長い。日本の仏像は何百年たった今でも人々に祈られる対象として使われている。仏に込められた仏師の思い、仏を拝む人たちの思いも受け継がれている。

個人的に、大河ドラマで鎌倉時代をしているので運慶との物語はかなり胸熱展開だった!運慶の願いが込められた仏像に惹かれ、藝術としての仏像を探そうとするアイリの変化が、読んでいて「成長」を感じた。面白い。仏像。


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